2016年01月10日

朝が来る 辻村深月

朝が来る 辻村深月(つじむら・みずき) 文藝春秋

 「朝が来る」というのは、こどもができない夫婦が、長いトンネルを通過するような体験を経て、最後に、特別養子縁組制度で、あかちゃんを家族に迎えた瞬間を指します。暗いトンネルを抜けて、朝が来たのです。40代栗原佐都子(さとこ)・清和さん夫婦は、養子としたあかちゃんに「朝斗(あさと)」と名付けました
 怖い話です。朝斗くんが幼稚園5歳になって、彼を産んだという女性が、栗原夫婦に迫ってきました。子どもを返してほしい。それがだめなら、お金が欲しい。さらに、読み始めてみると、その女性は、どうも、朝斗くんを産んだ女性ではないのです。夫婦からみて、「あなたはだれ?!」というスリルがあります。

 第一章、第二章とあって、そこが栗原夫婦の事情でした。今は、第三章を読んでいます。とても長い章で、170ページぐらいあります。第三章は、朝斗くんを産んだ14歳中学二年生片倉ひかりの事情です。

 この作品に限らず、この作者さんの作品を通して、読者に伝えたいメッセージのひとつに、母と娘の対立や葛藤があります。娘は、母親に対して、母親はわたしを理解してくれないと主張します。世間体を優先して娘のことを考えてくれない。
 わたしは主人公と違って、男性であり、成果が見込めるなら、嘘も方便という妥協型のためか、なかなかわからない潔癖な世界です。(作品中では、真面目で潔癖な家と表現されています)ですので、それを横においといて、これまでの感想を並べます。

 いつかは、映像化(ドラマ化、映画化)されるであろう作品です。(でも、読むのが一番いい。)
 メッセージとして、子育てにおいて親は、①筋を曲げない。②話し合う。③強い存在でいること。④性の話をあからさまに話せる親子・きょうだい関係を築く。などがあります。本作品イコール、性教育を無難に乗り越える教科書のようでもあります。

 特別養子縁組制度を巡るトラブルに関しては、法律で根拠があろうことから法律に従う手法で困難を乗り切ることが基本だろうと考えます。(肝心の法律を知りませんけど)
 コーディネーターの浅見さんがときおり登場しますが、まだ、本格的なものではありません。

(つづく)

 冒頭付近は、重苦しくて、読むのがつらかった。他の母親とのこどもをめぐるトラブルは、ちょっとおおげさかと思いました。ただ、ありえないことではありません。現実には、金で決着というよりも、互いに干渉・交流しなくなることが多い。
 展開は劇場的です。ここまで大きな騒ぎになるとは思えない。

 妊娠・出産した女子中学生側の立場をみて、両親がふたりとも教師という設定は、どうなのかな。教育のプロですから、失敗がないとは言い切れませんが、子を預けている親としては不信感や不安を抱くでしょう。
 中学生側の家庭は、被害者なのに、周辺の親族関係も含めて崩壊していきます。
 本来の責任は、避妊せず妊娠させた男性側にあるのに、男性側の一族はのうのうと暮らしています。そこが女子側の弱い立場になるのでしょう。男側に対する復讐があってもいいとさえ思わせてくれます。
 224ページ付近から続いていく実子との別れのシーンは、あまりにも悲しい。妊娠中、中学2年の片倉ひかりが「ちびたん」と名付けて話しかける胎児は親族内でなんとか育てていけないのかと思う。232ページ付近では、子どもって何だろう?!という気持ちにさせられます。泣けます。

 結婚したからといって、すべてのカップルに子どもができるわけではないと知ったのは、自分自身が結婚してからです。周囲にいる夫婦をみて、感覚的に、10組に一組は子どもができないような気がします。その人たちの苦しみは大変なものであろうと察します。
 自分自身、子育ては、気が遠くなるほどの忍耐の積み重ねと思いながらやってきました。いいことばかりではありません。子どもができないならできないで、運命として、そういう人生を歩んでゆくものと思ったことがあります。
 次に養子制度についてです。昔から、養子というものはたくさんありました。珍しいものではありません。身近です。
 本作品の中では、養子がこどものときから養子にあなたは養子であると教えておく。養子であっても、実子のように育てているという愛情を注ぐとあります。正解だと思います。隠さない方がいい。血がつながっていても、子どもがこの人は自分の親ではないと思えば親ではないし、血がつながっていなくても、子どもがこの人は自分の親だと思えば親です。

(つづく)

 308ページ付近、ヤクザの登場あたりから、特別養子縁組制度とは関係のない話になっていく。惜しい。予想していた展開とちょっとズレが生じている。もうひとつ、別のパターンがあった。テーマが、女性の一生、女性の生き方にすり替わります。女性を追求する物語に転換してしまいました。(のちに、作者にうまくしてやられる結果になります。)

 もう、残り5ページぐらいです。子を産んでさまよう片倉ひかりは、もう死ぬしかないなあと、読んでいても、行き詰まりです。読者も同感してしまいます。

 読み終えました。
 子どもは、社会全体で育てていく。
 いい作品でした。すばらしい。「朝が来る」のです。朝斗くんが柱になって、みんなを助けてくれました。

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