2014年07月27日

私に似た人 貫井徳郎

私に似た人 貫井徳郎(ぬくいとくろう) 朝日新聞出版

 直木賞候補作でしたが落選しました。芥川賞にしても直木賞にしても読みたい意欲が湧きません。純文学芥川賞は、何が書いてあるのかわからないし、暴力団を素材にした直木賞作品も読みたくありません。(その後、購入しました。そのうち、感想をアップします。選考経過の新聞記事を読みました。暴力団を否定している。なんとかを書かずに、心理を表現していることがすごいというような内容で、読む気になりました。)候補作自体も販売ルートにのっているものが少ない。そんな自分の身の回りのなかで、販売ルートにのっているのが、この本、それから、奥さんがファンタジー推理作家で自身の白血病治療に取り組まれた加納朋子さんということで読み始めました。
 短編10編です。2編目を読み終えたところで、感想を書き始めます。2編目を読んで、この小編たちが関連性をもっていることがわかりました。以前読んだ同作者の「乱反射」を思い起こさせてくれます。東京渋谷で自暴自棄になった若者がトラックを運転して人ごみに突っ込む。無差別殺人行為です。そこに至るまでの関係者の生活経過が書かれています。
 第1編「樋口達郎の場合」幼馴染の元恋人が事故の犠牲者で亡くなっています。無差別殺傷交通事故を「小口テロ」と定義しています。亡くなった被害者の元恋人である樋口達郎は、将来の夢がない男でした。第2編「小村義博(おむらよしひろ)の場合」、タイトルの彼がトラックを運転していた犯人です。彼もまた樋口達郎同様に夢がない男でした。気の毒な生い立ちがあります。この小説全体を包むのは「失う」ということではなかろうか。愛していた女性を失う。かわいがっていた動物を失う。心の支えを失う。そして、夢を失う。

(つづく)
「二宮麻衣子の場合」トラックぶつかり事故現場で救出にあたった通行人男女の物語です。ふたりは事故現場における日本人の無関心さを責めることで共通の理解を得ます。しかし、その後男性は、日本人の知らん顔をする態度が原因で命を落とします。麻衣子は、こんな国、日本は滅んでしまえばいいと訴えます。

(つづく)
 1週間ほどで読み終えました。
 一連の殺傷事件を誘導するのが「トベ」というハンドルネームのソーシャル・ネットワーク・サービスシステム上の人物です。この小説はスマートホン依存者のお話でもあります。
トベは、スマートホンを使用して、日常生活に不満をもっている人物に「社会が悪い」という考えを植え付けて、レジスタント(抵抗する者)を仕立てて、無差別殺傷行為をあおっていきます。トベとレジスタントの目的は復讐です。復讐の相手は誰でもいい。
 読みながら暗い気持ちになりました。明るさがほしい。日本人の他者に対する無関心さを問うテーマです。同作者の作品「乱反射」のときもテーマは「無関心さ」でした。
 読みながら、自分が求めている小説とは違うと感じました。
 雇用に恵まれない求職者若者に対して、自己責任とか自助努力とか言わないでほしい。何も知らない昔の若者たちであった今の年寄りたちは、仕事が見つからないのは、本人の努力と能力不足だと考えているでしょう。正しくは、仕事をパソコンやロボット、ネット-ワークシステムに奪われてしまった。便利にならなくてもよかったと思ってみても、もう遅い。
 「公安刑事」の意味がわからなかったので調べました。治安維持が目的。テロ防止もそうなのでしょう。
 小説の内容は日本人の性質を分析します。いい評価はありません。小口テロの草の根運動が記述されていきます。テロ行為を何度やっても社会は変わらない。
 ラストは薄い。ネット社会の脆弱さ(ぜいじゃくさ、もろくて弱い)が描かれていました。復讐行為の繰り返しは、今のパレスチナとイスラエルの紛争のようでした。

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