2022年02月07日

チェロの木 いせひでこ

チェロの木 いせひでこ 偕成社

 美術品のような絵本です。
 水彩画の絵が輝いていて、独特ないい雰囲気が画面いっぱいに広がっています。

 日本のことだと思って読み始めましたが、外国のことでした。
 一度全体を読んでみました。
 これからもう一度目を通してみます。

 絵に、光と影があって、光線がまぶしく輝いています。
 
 小さな少年が出てきて、彼のものとなる楽器『チェロ』を木からつくるお話ですが、とても長い歳月がかかっています。

 ぐぜり:若鳥の不完全なさえずり。ここでは、ヤマバトの不完全なさえずりとされています。
 そういえば、数日前、早朝散歩をしていた時に、ウグイスのたぶんつがい(夫婦)らしき姿を見ました。枝から枝へと二羽が軽くジャンプしながら飛んで移動していました。
 ウグイスが、ホーホケキョと鳴く季節はまだ先ですが、春の暖かい日を迎える準備は進んでいるのでしょう。

 小さな少年(書中では「わたし」)には、おじいさんがいました。
 おじいさんと少年は森の中を散歩しました。
 おじいさんは、少年が小学生になる前に亡くなりました。
 おじいさんは、職業として、森の木を育てる人でした。

 少年の父は楽器をつくる職人でした。
 父はチェロをつくって、つくったチェロをチェリストに渡しました。
 
 少年は両親と三人で、チェリストの演奏を聴きに教会へいきます。
 絵本にある絵をながめていると、まるで音楽が耳元(みみもと)に聞こえてくるようです。
 
 歳月が流れて、少年はどんどんおとなへと成長していきます。
 秋のまばゆい紅葉風景、冬の冷たい雪の風景
 森の木々と鳥や虫や、空の雲や雪が降る自然の風景があります。
 雪の結晶である花びらのような粒子は軽くて、空気中を、降りたり、昇ったり、渦巻いたりします。
 空全体から、白い粉雪が落ちてきます。
 
 このあたりから、お話は幻想的になっていきます。
 少年は、チェロの材料になる木になったのではないかという錯覚が、読み手に生まれます。
 楽器職人の父親が、少年のために子ども用チェロを製作します。

 この物語は、今となっては老齢者になった少年が、過去をふりかえっているものです。
 もう祖父も父親もチェロリストも、そしておそらく母親もこの世にはおられません。
 楽器のチェロだけは、今も残っていて、老齢者になったかつての少年の手の中で音を奏でているのです(かなでている)。
 亡くなったみんなの霊魂がいるのは、かつての少年が父親につくってもらったチェロで演奏している音楽の中です。

 音楽や歌を聴くと、その当時のことを思い出すということはあります。
 歌謡曲やフォークソングや演歌が、人生のランドマーク(めじるし)になっているということはあります。今回の絵本の場合は、クラッシック音楽なのでしょう。

 いまはもう結婚して家を出て行ったうちのこどもたちが使っていたこども部屋に、古くなったクラッシックギターが3台とエレキギター数本、安物の初心者向けヴァイオリン、トランペット、キーボードなどの楽器がそのまま置いてあります。クラビノーバ(電子ピアノ)とフォークギターは、息子が持って行きました。
 孫たちがくると、部屋に置いてある楽器を遊び道具にして、じゃらんじゃらん、ギーコギーコ、ブーブーと弾いています。
 
 この物語は、親族のつながりを主題にして、チェロという楽器で各自の人生という時の流れを表現してあるのでしょう。  

Posted by 熊太郎 at 07:04Comments(0)TrackBack(0)読書感想文