彦一とんちばなし 上・下 小山勝清 偕成社文庫

 小学2年生のころ、給食の時間帯に学校放送で流れていました。当時、学校嫌いでしたが、給食を食べながらその放送を聴くことがとても楽しみで、嫌でも学校へ登校していた記憶があります。物語に感謝です。時代設定は江戸時代で、場所は現在の熊本県八代市です。ひとつの物語は、原稿用紙に2・3枚程度で短い。上下巻通じて99話あります。長編よりも短編のほうが書くのにむずかしいという話を読んだことがあります。
 とりあえず、上巻の32ページまで読みましたが、学校放送当時の内容までは覚えていません。今思うに、話の中身と同時に、黒板の上のスピーカーから聞こえる朗読の雰囲気が好きだったのだろうと。

 1896年明治29年生まれ、1965年昭和40年69歳没の小山勝清(こやま・かつきよ)さんという熊本県出身の方が作者です。
 
 彦一は熊本のヒーロー扱いです。村一番の知恵者で、働き者。
 「キッチョン」が出てきます。「吉四六きっちょむ」で、同じく知恵者として昔の物語に出てくる人物です。
 毎回、きれいな決着があるわけでもありません。それはそれでいい。
 「ひげの長者」は、なんだか、胸がすーっとしました。自分が一番とうぬぼれると、人にだまされるというお話しでした。
 今も昔も同じく、威張る男のバカさ加減が記されています。
 昔の人のその時代の知恵話は愉快です。
 お伊勢参りの話も不朽で今なお継続しています。
 彦一はなかなかの切れ者、知恵者です。頭の回転が速い。当然作者自身の発想が豊かです。悪人をだます。さすがです。受け止め方によっては彦一が詐欺師です。
 彦一は正義感があり『もみ消し』を嫌います。
 第27話「にらめっこ」は、こどもの頃に学校放送で聴いた記憶がかすかにあります。
 第30話「飛行術」は、そういうことかと納得しました。
 奉納では、昔、博多の櫛田神社を訪ねたおり、歴代力士がもちあげた巨石があったことを思い出しました。相撲は神事です。
 歴史を感じる作品群でもあります。江戸時代の人たちは善人です。身の丈に合った枠の中で暮らしています。
 彦一のとんちの切れ味はさすがです。子どもさん向けのなぞなぞとしてもおもしろい。「さすが」としか、言いようがありません。うまいことを言います。彦一の「モデル」がいるような気がします。
 第36話「犬のけんか」は、ちょっと無理がありますが、江戸時代の人は対立しても互いに善人です。他の物語も含めて、基本的に、ハッピーエンドです。
 第40話「昼ちょうちん」は、珍しく、殺人事件の推理です。彦一は、現場主義の立場に立って事件発生の経過を再現します。名探偵です。
 熊本から江戸まで参勤交代をする。徳川家康の政策は、全国の文化交流と経済活性化に役立っています。
 201ページまで読んできて、ようやく気づいたことがあります。「彦一」とは、青年だと思い込んでいましたが、「百姓の小僧、百姓のこそがれ」、青年ではなくて、子どもでした。
 生き残るための「知恵」があります。
 子どもさん向けの短文ですが、読むのには時間がかかります。
 上巻を読み終えました。最後は、「ほー、そうか」でした。

 巻末付近に、「偕成社文庫発刊に際して」という宣言文があったので読んでみました。昭和50年、1975年の記事です。設立の主旨がよく伝わってきます。
 時代は変わりました。文書出版の衰退は著しい。書籍に限らず、過去作品の使いまわし、リバイバル、お金も物も前世代の貯えを消費しています。いつかは限界に達するときがくるのでしょう。静かな社会が待っています。

 下巻を読み始めます。
 第53話「名人のこころがけ」では、横綱の品格を思わせてくれます。勝っていばらずです。
 第54話「あの道この道」では、道徳(社会生活における倫理、規範)を考えます。
 熊本は細川家、鹿児島は島津家。下巻はサムライ社会を中心とした公務員の世界を描いているようです。
 第59話「盆栽さばき」は、おもしろい。お気に入りの1本です。不注意で盆栽を壊されて、その相手を手打ちにするという盆栽の所有者であるサムライを上手に収めます。
 発想の手段の一つとして、「区域を拡大して考える」
 上巻と違って、彦一に陰険さ(表面に出さず腹のうちに悪意あり)があります。おびきだしは、おとり捜査的です。
 ここまできて、まだ先が長いこともあって、「あとがきにかえて」を先に読みました。
 読んでみると、全部が作者のオリジナルとうことではなく、昔話の蓄積です。代々語り継がれてきた口述文化の集大成です。
 解説を読むと、作者は地元愛が強い。熊本県人吉市の病院に最後は転入院して亡くなっています。
 第68話「三太のてがら」では、手話が解決の手法として出てきます。すごい。このほかの話でも、障害者が物事の解決で活躍します。
 後半は、東海道中膝栗毛のパターンで、彦一と庄屋さんが、熊本―大分―福岡―長崎と道中を楽しみます。
 対立ではなく、「共存」が下地にある物語です。

 調べたことがらなどとして、「貨幣の単位としての文(もん)作中ではカラスが1羽90文:1文12円だから1080円」、「かたはらいたい:ばかばかしい」、「ごまのはい:江戸時代の盗人。甘い言葉で近づいて来る」、「鎮守の森:神社の境内にある森」、「ちんむるい:変わっている。こっけい」、「奉納:神仏に物品を供えたり、芸能・競技をしたりすること」、「1両:10万円~20万円」、「名代:みょうだい。ある人の代わり」、「荒木又右衛門:江戸時代初期の武士。剣客」、「武者窓:武家屋敷の太い縦格子の入った窓」、「弱り目にたたり目:弱ったときにさらに災難にあうこと。不運が重なること」、「宰領役:監督する。取り仕切る」、「熊襲:くまそ。古代の九州南部に住んでいたとされる民族。他の地方だと思っていました」、「はんじもの:絵画に隠された意味をあてる」、「あわせ鏡:2枚の鏡をあわせること。向かい合わせに設置する」、「讃:さん。ほめたたえる文」、「ふしおもしろい:メロディーとリズムがおもしいろい」、「ろんよりしょうこ:あれこれ論じるよりも証拠を示して事実を明らかにすること」、「こわ談判:強硬なかけあい」、「五穀:米、麦、粟、キビ、豆」

 気に入った表現として、「計略」、「証拠がないからいつまでも争いが続く」、「剣を抜いて敵を切ることだけが武術ではない。場合によっては、敵の襲撃から逃れなければならないときもある」、「勝ち負けをさばく」、「彦一の水ぶろ」、「目標は、庶民のロマン(あこがれ)を文学の世界に表現すること」、「人は食べないでいると、仕事もできず、はては、乞食になったり、泥棒になったりする(だから、領主は人々に食べることができるようにしなければならない)」  

Posted by 熊太郎 at 05:47Comments(0)TrackBack(0)読書感想文