2022年06月13日

その扉をたたく音 瀬尾まいこ

その扉をたたく音 瀬尾まいこ(せお・まいこ) 集英社

 読み始めました。
 なんだか、さえない男性主人公です。
 ギター弾き29歳無職の宮路(みやじ)が、老人ホームでなにかをしています。
 自称ミュージシャンの施設入所高齢者慰問です。
 自称ミュージシャンですから、年寄り向けの曲の演奏はしません。
 自分のために演奏する人です。
 大学を卒業して無職のまま7年が過ぎていたというのは、自慢にはなりません。
 一般的には、音楽でメシは食えません。
 楽器の演奏よりも、読み書き計算、パソコン操作、車の運転、営業、接客、企画立案実行の能力をもたねば働けません。合わせて、自己の健康管理(心のもちようも含めて)、仕事の管理を始めとした人間関係のコントロールもしていかねばなりません。なにせ金勘定が基本です。自分のお金の管理ができない人は、会社や組織のお金の管理はできません。身の回りの整理整とんもできなければなりません。
 音楽だけで食べていける人は、音楽だけでしか食べていけなかったりもします。365日、24時間すべて、音楽のために時間を費やす人です。
 芸術家というのは、これしかできないから打ち込むしかないのです。本人も気づいていて、逃げ場のない世界で必死に生きています。
 宮路は、11月27日が30歳の誕生日だそうです。
 宮路は思いやりのない人です。相手に、オレの音楽を聴かせてやっているという態度が伝わってきます。
 グリーン・ディの曲:アメリカ合衆国のパンク・ロックバンドの曲を施設入所している高齢者に聴かせます。
 音楽演奏者で生活していくことにあきらめがつかない自分なのに、あきらめない自分(ネバー・ギブアップ精神だぞと)のことを立派だとまわりに自慢したい人です。
 どうやって生活しているのだろう。親の財産を食いつぶしているのだろうという予測しかありません。典型的なダメ人間です。
 世の中には、五体満足で口が達者でも働けない人がいくらかいます。自慢話を聞かされても、過去になにかをやり遂げたという実績がない人なのです。そのことが判明すると、それまでそばにいた人は離れていきます。

 サックスホーンのいい音色を(ねいろを)聴かせてくれるのが、老人ホーム男性職員の渡部(入所者からこうちゃんと呼ばれている。58ページに25歳とあります。祖母とふたり暮らしをしていると72ページに書いてあります)です。
 されど彼は、音楽療法士というわけではありません。
 演奏するのは、年寄り相手ですから、こどものころに学校で合唱した『ふるさと』のような日本童謡のような曲、あとは演歌です。
 
 いいかげんそうな自称ギタリストの宮路が、老人ホーム職員の渡部をサックス演奏の神様だと、この本の読者に訴えるのです。

 金曜日の午後2時30分が、老人ホームでのレクレーションの日時です。
 レクレーション:休養と元気回復のための娯楽

 宮路のひとり語りが続きます。
 宮路は勝手に老人ホームを訪問しますが、たいていは、呼んでもいない部外者の訪問を老人ホームは断ります。なにかの事件の犯人になるかもしれませんから。
 玄関は、認知症の高齢者がいつのまにか外へ出ていかないように施錠してあります。

 読んでいて、施設には入りたくないと思う。
 自分の希望は、在宅介護でお世話を受けながら、あの世に逝きたい。(いきたい)

(つづく)

 半分ぐらい、102ページまで読みました。
 渡部のサックスのうまさの話は、まだ盛り上がってきません。

 主人公の宮路29歳無職自称ギタリストは、老人ホーム入所者である水木静江の息子という立場で施設へ出入りします。(ありえません。他人です。でも、施設は知っていて許容しています)
 ほかに出てきたのが以下のメンバーです。
 スタッフとして、前田、遠山
 入所者として、12月2日が誕生日の今中のおじいさん。宮地からウクレレを習う本庄さん(本人は、ウクレレを小さなギターだと思い込んでいる)、3月が誕生日の八坂(やさか)のおばあさん、10月26日が誕生日の内田のおばあさん。
 老人ホームの名称は『そよかぜ荘』です。3階建て。1階が事務室。デイサービス空間。2階が入所者10人。3階が自分のことを自分でできない入所者が6人。

 親から毎月20万円の仕送りをもらっているひとり暮らしの主人公宮路29歳自称ギタリストです。
 親は、土地持ち不動産収入有りなのか。それとも大企業の創始者とか、幹部社員とか、あるいは、医師とか弁護士とか、いずれにしても、親から見てやっかい者の息子だから、そばに置いておきたくないのでしょう。まあ、世間体も気になります。みっともない息子とは別居して、金だけは援助する親のパターンです。

 働かなくても生活ができるということは、不幸ではないけれど、幸福ともいえません。

 人間というものは、オギャーと生まれた途端、たくさんの資産がくっついてくるベイビーと、逆に借金がくっついてくるベイビーがいます。これを『親ガチャ』というのでしょう。
 ただ、そのときに資産があっても、ぼーっとしていると、いつか資産は消えていきます。

 慰問のコントで、定期預金をする話が出ますが、いまどき定期預金に利子はつかないのも同然ですから、新規で定期預金をする人はあまりいないと思います。投資信託か株式投資のたぐいが多い。

 人のことを『ぼんくら』と呼ぶのはどうかと思いました。ふつうだったらけんかになります。
ぼんくら:まぬけ。人間のレベルが低い。まあ、主人公の宮路は、ぼんくらですが。(こんな人間とはかかわりあいになりたくない)
 くわえて、老齢の女性を『ばあさん、ばあさん』と呼ぶのもいやな気持になりました。「ぼんくら」にしても「ばあさん」にしても、どちらにしても人を見下しています。(みくだしています)

 季節は7月です。11月27日の30歳の誕生日に向けて、ぼんくらの宮路は、なにかを成し遂げたいらしい。30歳まで音楽をやって、芽が出なければ音楽で食べていく夢をあきらめるらしい。
 彼女いない歴7年だそうです。あわせて、アルバイトの経験もないそうです。(こういう人っているのだろうなあ。男でも女でも)

 宮路が高校1年生になったとき、父親が10万円のギターを宮路に買ってくれた。
 
 ちょっと気になったセリフとして『あんまり男子で吹奏楽部入るやつっていなかったなと思って』(そうなのか。意外です。自分が中学生だった時はけっこう男子生徒が吹奏楽部にいました)

 お金の面において、ギター弾きの主人公宮路とサックス吹きの渡部は正反対の家庭環境にあります。そのふたりがくっつくとは思い難い。

 ペグ:ギターの弦をギターに取り付ける時に使用する糸巻きのような小さな器具
 音階として:ABCDEFGは、ラ(A)シ(B)ド(C)レ(D)ミ(E)ファ(F)ソ(G)に対応する。
 
 上を向いて歩こう:坂本九さんが歌っていた。

 老後のことについて考える本だろうか。
 入所者のみなさんは、金銭的には裕福そうです。金はある。使い切れないというコメントがあります。
 されど、入所者に会いに来る家族や友人などはいない。

 会話形式の文章で、話を進めていくスタイルです。

 セットリスト:なんの曲を演奏するか決めるためのリストだそうです。一覧表。

 102ページに書いてある絵のことは、このあとどんな伏線になるのだろう。(渡部が中学生の時にもらった絵。鉛筆画。リボンが風になびいているような絵。

(つづく)

 読み終えました。
 うーむ。高校生向けの読書感想文コンクールの課題図書なのですが、どうなのかなあ。
 現代の高校生の生活に密着していないような内容でした。

 29歳無職独身男性主人公宮路が老人ホームにいるのが場違いです。
 29歳は、若い世代といるべき年齢です。とくに、いるとしたら、ちびっこたちと一緒です。
 自分が29歳のときは、すでに乳幼児をかかえて、お金がなかったので、夫婦共働きでこどもたちを保育園に預けての送り迎えで、必死になって働いていました。ちいさい子って、病気ばっかりするんです。こどもが熱を出すと、どちらが仕事を休むかで夫婦げんかばかりしていました。
 それにくらべて、この小説の主人公の宮路は、だめなやつです。
 あわせて、読者にとって魅力的な主人公の個性設定ではありません。
 お金があっても働いていない人は、社会では一人前には見られません。

 伏線として、102ページの『鉛筆画「駅伝のたすき」』(渡部が中学卒業の時に駅伝部顧問の美術教師からもらった。
 それからもうひとつ『タオル』がありました。

 ウクレレ練習好きの本庄さんが認知症になったあたりの話は、いきなりの出来事で無理があり、筋立てとして、ぎくしゃくしていました。

 シッカロール:ベビーパウダー。あせも、おむつかぶれ、ただれなどに使用する。
 
 お金がある家に生まれた宮路の境遇について話があります。
 お金でふりまわされる友人関係です。みんなのお財布的な存在です。たかられます。(金銭を要求される)
 122ページに『だから俺は、できるだけ目立たないように過ごした……』とあります。悲しいことです。

 登場する文学作品や楽曲は相当古いものです。今の高校生たちにはなじみがないので、読んでいてピンとくるか心配です。心に響かないのではないか。高齢者ならわかると思いますが、読者は、西暦2000年を過ぎてから生まれた人たちです。
 あわせて、外国曲もわかりません。

 渡部の天才的なサックス演奏だという披露が、読み始めた時は期待しましたが、結局ありませんでした。
 
 91歳である水木のおばあさんに関して、いろいろと出来事やコメントがあります。
 たぶん、この老人ホームに入所している人たちみんなに共通することとして、お金はありますが、見舞いに来てくれる友人も知人も親族もいません。
 (水木おばあさんのセリフ)『もうすぐ死ぬのに貯金してどうすんだよ』
 水木のおばあさんが本を買ってきてくれと宮路に頼みます。わたしなら『バカのすすめ 林家木久扇(はやしや・きくおう) ダイヤモンド社』と『水を縫う(みずをぬう) 寺地はるな 集英社』を買ってもっていきます。
 (水木おばあさんのコメント)『(宮路はへたくそのくせにうぬぼれているとして)へたくそなギターに野太い声……ぞっとしたよ。みんながしらけているのに……』(宮路には、実際は音楽演奏も歌も下手くそなのに、自分はできていると思い込んでいる錯覚があります)
 (水木おばあさんのコメント)『(自分が)老人ホームに入った時点で人生は終わった……』
 後悔しない人生ってあるのだろうか。水木おばあさんは、自分の人生を後悔しているのではなかろうか。水木おばあさんは、宮路に、わたしみたいになるなと言いたいのではなかろうか。

 ウクレレのコード(和音わおん)として、Cmシーマイナー B7ビーセブン

 坂本九『心の瞳』知らない曲だったので、YouTubeで聴きました。御巣鷹の尾根(群馬県おすたかの尾根)への日航機墜落事故を思い出してしまいます。
 自分は、リアルタイムでニュース放送を聞いていました。
 1985年8月12日でした。ちょうど帰省していた九州の実家のテレビで見ました。
 坂本九さんが乗客で亡くなって驚きと悲しみがありました。

 読み終えて思ったことです。
 29歳はまだまだです。
 人生は長い。昔のフォークソングにあったように『きみのゆく道は果てしなく遠い』のです。
 30歳から先、病気やけがや事故や事件など、次々とトラブルが訪れるのを乗り越えていかなきゃなりません。必ずトラブルは起きます。つきものです。トラブルは、日常生活にセットでついてきます。
 世の中には、いつまでもこどもの世界にいる人と、早い年齢から、こどもの世界を抜ける人とがいるのでしょう。
 タイトルの『その扉をたたく音』のメッセージは、扉をたたいてあげるから、いい歳(とし)してるんだから、いつまでもこどもの世界にいないで、こどもの世界を抜け出して、さっさと、おとなの世界に来なさい! というお叱りなのでしょう。

(その後)
 本を読んで、上の感想を書いてから1週間ぐらいがたちました。
 作者の意図(いと。おもわく。伝えたかったことのプラン)したことではないのかもしれませんが、亡くなった水木のおばあさんは、次のことも宮路に伝えたかったのだろうと新たな発想が生まれました。水木のおばあさんの「老人ホームに入ったとき、自分の人生は終わった」に続く言葉です。
 『いま、お金がたくさんあっても自分は幸せじゃない。お金がたくさんあっても、使わなければないのと同じだ。節約に徹して、お金を使わなかったのは、心に不安があったからだ。自分を支えてくれるのは「人」ではなく「お金」だと信じるしかなかったからだ。宮路、おまえは、そんな人生を送るな』というアドバイスになるのです。
 そうすると、音楽が好きなら音楽の仕事を続けて人間関係を広めよ。なにも演奏者だけが音楽の仕事じゃない。ほかにも音楽に関連する仕事はあるだろ。
 夢を追え。そして、ちゃんとしろ。働いて、結婚して、家庭をもて。こどもを育てろ。お金を使え。自分のまわりに家族をもて。
 思考は、そこまで広がりました。

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