2016年05月06日

バラカ 桐野夏生

バラカ 桐野夏生(きりの・なつお 女性) 集英社

 事前に書評を読みました。東日本大震災で福島原発が爆発したという設定から始まります。最後まで、重苦しく、暗く、救いがないとありました。今、63ページ付近を読んでいます。暗さは見られません。全体で650ページの長編ですが、文章は読みやすい。ゴールデンウイーク中で明日は用事がないので、できれば明日中に読み終えたい。(4月30日現在)

 「バラカ(神の恩寵(おんちょう。神さまからの慈しみ(いつくしみ)、恵みという意味)」とは、原発事故の中、群馬県の放射能汚染地域内にある納屋の中で、取り残されたらしき、おむつもとれていない女児の名前を指します。本人が自分の名前を「ばらか(のちに薔薇香と命名される)」と言います。それを聞いて保護したのが、ペットである犬猫保護ボランティアをしている老人豊田吾朗(とよだ・ごろう 62歳)です。彼は、5年前に妻を脳腫瘍で亡くしています。

 いっぽう、途中から別の物語が挿入されます。木下沙羅(きのした・さら 42歳 編集者)と彼女の親友という田島優子(同い年 テレビ局勤務 番組「子供と貧困」担当)、田島の大学時代の彼、川島雄佑(離婚、大手広告代理店退社後、現在は東京で葬儀屋に勤務)の3人が軸になって動く話です。(この部分はどうも大震災発災前の時代のようです。)

 福島原子力発電所が爆発したとして、小説では、放射線が西に位置する群馬県方面へ流れていますが、逆ではなかろうか。自分には、風というものは、西から東に流れるという考えがあります。

わからなかった単語として、「モヒート:お酒。キューバ国発祥。ラムベースのカクテル」、「疚しさ:やましさ。漢字を読めませんでした。」、「ギャラクシー賞:日本の放送文化に貢献した人ほかに授与される賞」、「諍い:いさかい。漢字をはじめてみました。」、「かぶいた格好:常識外れ、異様な格好」、「ゼク:人体解剖のことをいうらしい」、「エンバーミング:遺体の保存処理」、「ED:勃起不全。調べないとわからない」、
「ワリーダジャミーラ:美しい子供。ミカ(バラカ)のこと」、「女衒:ぜげん。若い女を遊郭などに売る商売をする人」、「エージェント:代理人」、「クー・クラックス・クラン:アメリカの人種差別グループ。白い手袋をしている。」、「聖性:せいせい。神聖さ。キリストに言動が似る。」、「崇める:あがめる。すぐに読めませんでした。」、「レイシスト:人種差別主義者」、「ドバイ:アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつ。人口244万人」、「曲のリフレイン:繰り返し部分」、「聳える:そびえる。読めませんでした。」、「ベビー・スーク:ドバイにある赤ん坊を売買する市場」、「棄民:きみん。放射能汚染地域に住んでいた住民。忘れ去られてもかまわないという定義」、「テタニーの症状:低カルシウムによるけいれん」、「ビッチ:メス犬、嫌な女という意味で使う。」、「ミソジニー:女嫌い」

 物語は、3つ目の展開に入りました。佐藤隆司パウロという日系ブラジル人が登場します。妻の名前がロザで「聖霊の声教会」の信仰に没頭しています。ふたりのこどもとして生後6か月の娘ミカがいます。ミカちゃんが「バラカ」ではなかろうか。
 キーワードとして、「あなたの失敗のサイクル」というフレーズ(文節)が出てきました。
パウロにとっての失敗のサイクルは、アルコール依存症とか喧嘩の暴力です。ヨシザキ牧師というサッカー、フットサルのうまい人が詐欺師みたいなポジションで登場しました。

(つづく)

 途中で気づきました。
 右ページの上に「大震災前」とあります。左ページの下に「失敗のサイクル」とあります。まだ、2010・3・11(平成22年3月11日)の東日本大震災は発災していません。先月(2016年4月14日)発災した熊本大地震の今考えると、東日本大震災も過去のこととなりつつあります。

 書中に、「悪魔の仕業(しわざ)」というのがあります。宗教的なものでしょうが、日本で南米系の人が犯罪をおかすと「悪魔がやった。(自分にのりうつって)」と言います。なんて奴だと腹が立ちます。

 登場人物たちは、ドバイを目指す動きにあります。

(つづく)

 午後12時00分。第二部305ページまで読みました。
 東日本大震災が発災しました。福島の原子力発電所は1号機から4号機まですべて爆発しました。半径80km圏内が避難勧告、東京までが230km
 第三部は、大震災八年後からはじまります。

 ここまでは、異常な世界が繰り広げられます。ドバイのこども養子売買市場が異常です。それから、ヨシザキ牧師も変です。川島雄佑なんかは悪魔をとおりこして「鬼畜(きちく。人を人と思わぬ残酷行為)」です。川島には「天誅(てんちゅう。天罰)が必要です。

 作者は「津波」をどう文章表現するのかと興味をもちました。その文章量は少ないけれど、悲惨さはよく伝わってきました。

(つづく)

 この本からこの本を離れて、いろいろつながりが生まれてきました。
 まず、理髪店、最近、奥田英朗(おくだ・ひでお)作「向田理髪店」を読みました。北海道旧炭鉱町にある向田理髪店の店主向田康彦さん53歳を介在役にした小説でした。「バラカ」では、北海道旭川市の理髪店主岩崎じいさんが、バラカと豊田吾朗のめんどうをみてくれました。理髪店主つながりです。今、机の上には、「海の見える理髪店」荻原浩(おぎわら・ひろし)作の本が立っています。最近の文壇では、理髪店を描くことがはやっているのだろうか。
 もうひとつ、「バラカ」の展開の中で、作品「わたしを離さないで」イギリス在住の日本人作家カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 早川書房が登場しました。先週読んだばかりです。将来、臓器移植をするために育てられている孤児たちの寮生活でした。おぞましい内容でしたが、おおぜいの人たちに読まれています。
 それから、書中にトヨタのワンボックスワゴン車エスティマが登場します。先週、レンタカーで運転しました。読書中、親近感が湧きました。

 読んでいて、ひとつ、頭に文章が浮かびました。「はかなきものにすがりついて生きるのが人生」

(つづく)

 午後7時00分、途中用事を済ませながらも、目標どおり、読み終えました。
 前評判とは違って、最後の4行に「救い」はありました。

 反原発運動者が国家によって監視・抑圧される。原発推進による企業や政治の金儲けが理由とされている。(言論の自由が保障されている日本はいい国だと痛感する部分です。)

 父親が、震災がらみで行方不明になった幼い娘を探し回る物語でもあります。

 ラスト付近、バラカが死んで、幻想をしているような風景があります。そこへ至るまでの経過の中に、「殺してもらったほうがいいぐらいの絶望感がある。」という表現があります。心に残った文節でした。

 最終的には、正義を貫く物語としてしっかり骨格が組まれていた作品でした。

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