2023年05月30日

病院にて

病院にて

 4月下旬のことでした。
 家族が大腸がん検診でひっかかって、再検査をした結果、大腸に複数のポリープが見つかりました。
 一泊二日で入院して、すべてのポリープを取り除きました。幸いにがんではないと言われたので安心しました。

 これまではわたしが患者の立場で家族に付き添ってもらって入院手続きをすることが、なんどかあったのですが、珍しく立場が逆転しました。
 大きな病院の待合室のベンチに座りました。
 ふと、感じたのです。
 『久しぶりに、こんなにたくさんの人間を見たなあ』と。

 たまの旅行の移動で見るおおぜいの人たちは、みな移動中であり、その場にとどまる人は少ない。人間を見たという実感はありませんでした。
 大病院の待合場所は、名前を呼ばれるのを待っている患者さんたちでいっぱいです。お年寄りが多いのですが『じっとしていて、生きている人間を久方ぶりに見た』という実感が湧いてきました。

 数年前に定年退職したことと、その後のコロナ禍で、特定少数の人との接触しかない生活が長らく続いていました。
 この三年間ぐらい、世の中はコロナ禍で大騒ぎでしたが、テレビの向こう側で騒いでいる世界と移動制限に従って、遠出せずに静かに家で過ぎていく自宅での自分の世界は別世界で、コロナ禍は、どこかほかの星で起きているような感覚がありました。

 現実社会との接点を感じるようになったのは、二年ぐらい前から株式投資を始めたことです。
 テレビニュースになることと、自分の行為が一致するようになったからです。
 しばらく前に、民間の月着陸船が月への着陸がうまくいきませんでしたが、自分が保有している株の会社が、そのプロジェクトに参加していることがわかって、嬉しい気持ちになりました。
 そのまえは、投資の神さまとよばれるアメリカ人の方が来日して、日本の商社株のお話をされたら、自分が保有していた商社の株が急上昇しました。びっくりしました。自分は社会とまだつながっているという喜びが生まれました。
 反対に、メガバンクの株を買った翌日に米国のシリコンバレーバンクが破たんして、そのあおりをくらって、購入したばかりの銀行株の株価が翌日急落してしまいました。がっかりしました。運がいいときもあるし、運が悪い時もある。それが株式投資と観念しました。
 いまは、社会とのつながりを株式投資でもてることに満足しています。

 世間に、コロナ禍明けの雰囲気が広がり、二十歳前後から付き合いのある古い友人たち数人から遊びのお誘いが来るようになりました。
 これからは月に数回、老いた旧友たちと集まって、昔話に花を咲かせることができます。
 三年間中止だった職場の同窓会を今年は開催するという案内も届きましたので、参加するつもりです。
 さようならコロナウィルス。もう来ないでね。
 中国起源のウィルスだと思うのですが、なんだかうやむやになってしまいました。人間界はぼんやりとしながら未来へと進んでいきます。(数日前、中国でまたコロナがはやりだしたというニュースを聞きました。ワクチンが普及したり、感染して抗体ができたりして、前回発生時とは異なる状態ですが、心配です……)

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