2024年02月14日

本と鍵の季節 米澤穂信

本と鍵の季節 米澤穂信(よねざわ・ほのぶ) 集英社文庫

 本と鍵ですから、とりあえず、本がからんでくるお話でしょう。
 短編6本です。文芸誌に掲載されたものがおさめられています。
 単行本は、2018年(平成30年)の発行です。

『913』
 まずは、18ページまで読みました。
 図書館の話です。
 913は、本の分類番号です。『日本の小説』を表す番号だそうです。

 (僕) 堀川次郎:高校二年生。図書委員。童顔。母親似。

 松倉詩門(まつくら・しもん 男子):高校二年生 図書委員 背が高いイケメン。スポーツマン。皮肉屋(人の成功を素直に喜ばない。嫉妬心(しっとしん)あり。自分を見てほしい)(どうも、この子が、名探偵コナンの役を担う(になう。担当するポスト)らしい)

 浦上麻里:高校三年生 元図書委員(受験がある三年生なので図書委員を引退した)

 ダン・シモンズの『ハイペリオン』:アメリカ合衆国の作家。1948年生まれ。75歳。SF作品(サイエンス・フィクション)

 開かずの金庫を開けるそうな。ダイヤル式の鍵番号がわからないそうな。913ではなかろうか。(ちがっていました)
 
 奇妙な文章として、『浦上先輩を見たのは今日が初めてだ。』 高校二年生の図書委員が、高校三年生の元図書委員の顔と名前を知らないわけがないと思うのです。

 ここまで読んで、これは、推理小説だと理解しました。そういえば、作者は推理小説作家です。
 作者は、読者をだまそうとしている。
 
 金庫に鍵をかけたまま死んだご老人がいる。
 人間が入れるぐらいの大きな金庫らしい。
 ご老人は富裕層らしい。
 『おじいさんの遺した(のこした)開かずの金庫』
 江戸川乱歩の短編『黒手組(くろてぐみ)』
 
 浦上麻里がおとなになればわかることがある。
 開かずの金庫を開けることができる。

 お茶の味に覚えがある。

 情報を探す。

 疑問がある。なぜ、鍵を開ける業者を呼ばないのか。(業者を呼ぶとまずい事情がある)

 『笑顔』は、要注意です。
 笑顔で近づいてくる人間は要注意です。下心があります。あなたのお金が狙われている。女性なら体を狙われている。(ねらわれている)。要注意です。
 人間とは本来ぶあいそうなものなのです。

 見た目にだまされてはいけない。美人でもイケメンでも要警戒です。
 もともと、異性にもてるタイプではない人は要注意です。
 物語には書かれていませんが、そのような警告を含んだ作品です。

 なにもかもがウソでできていることもあります。信用とか信頼を築くには時間がかかります。

 なるほど。うまい。
 
『ロックオンロッカー』
 美容院での推理です。松倉詩門と堀川次郎が美容院へ行きます。
 出てくるのは、次の人たちです。
 近藤:美容院の店員
 船下(ふなした):美容院の店長
 前野:美容院の店員

 高校二年 一組の瀬野:美女だが性格が悪い。図書委員。
 
 素材は、『盗難事件』です。

 松倉詩門の細かな考察が続きます。
 お客さんの手荷物を保管するロッカーがあるらしい。ロッカーが40人分あるそうです。(わたしはそのようなところには行ったことがありません。床屋、理容室に行きます)

 カットクロス:髪をカットするときに、体を包むようにかける布類
 パセリコーラ:パセリが入ったコーラだろうか。わたしにはわかりません。
 まろび出る:ころがるようにして出てくる。

 推理話の小品(しょうひん:ちょっとした作品)でした。

 この短編部分を読んだあと、たまたま理容室へ行きました。安価が売りのチェーン店で、座席が8席あります。
 店内に入ったら、フィリピン人の女性が迎え入れてくれたのでびっくりしました。
 席に案内されてあれやこれややりとりをして、その後、複数の店員に頭の世話をやってもらいました。
 フィリピン人女性は日本語でしゃべるのですが、イントネーションがマッチしていないので、一瞬何を言われているのかがわかりませんが、時間がたつと理解できます。
 少子高齢化で労働力不足がいわれています。出産率を上げることは、もう無理です。自分の体験だと少子高齢化は、40年ぐらい前から言われてきました。無理なものは無理だともうあきらめて、別の方法を発想したほうがい。できないことに、お金や労力や時間を費やしてもしかたがありません。ムダです。
 これからは、日本人を助けてもらうために、外国人に頼ったほうがいい。東南アジアの人たち、中近東の人たち、中南米、アフリカの人たちに助けてほしい。もちろん欧米の人たちでもいい。
 平日のお昼時なので、来ているのはおじいさんのお客さんばかりです。
 自分のお隣のおじいさんが、散髪が終わったあと、『サンキュー ベリ マッチ』とお礼を言いました。フィリピン人女性店員は笑顔で嬉しそうでした。

『金曜に彼は何をしたのか』
 植田登(植田・のぼる) 高校一年生 図書委員 小さなメガネをかけている。
 植田昇(うえだ・しょう) 高校二年生 植田登の兄 不良少年
 生徒指導部の横瀬先生

 この本は、高校という狭い世界(空間)における推理小説です。高校生向きの内容です。
 高校の図書室と高校の近くでの出来事です。
 人間の心情を描く小説ではなく、推理を楽しむ小説です。

 天地印:図書館の本に押すはんこ

 教室に青い鳥が飛び込んできた。(伏線になります)

 植田昇が、学校の窓ガラスを割って、テスト問題を盗もうとしたらしい。(冤罪(えんざい。無実の罪)の可能性あり)

 メンバーは、植田昇の兄植田昇の無実を証明したい。

 ほう。そう考えるのか。
 
 そういう終わり方をするのか。予想もできませんでした。

『ない本』
 不確かな自殺話です。
 自殺した高校三年生 香田勇。
 長谷川 高校三年生。

 自殺した香田勇が最後に読んでいた本を見つける作業です。その本に遺書がはさみこまれているらしい。

 ショウペンハウエル(ショーペンハウワー)の『自殺について』:ドイツの哲学者。1788年(日本は江戸時代。アメリカの独立戦争とかフランス革命の頃)-1860年(日本では、桜田門外の変。勝海舟、福沢諭吉が渡米した頃)。72歳没。『自殺について』:生きることを促す本。
 以前自殺のしかたを書いた本を読んだことがあります。ぶっそうな内容ですが、趣旨は自殺をやめようというメッセージでした。
 別の本では、お名前を忘れてしまいましたが、女性作家が、『人生においてとりかえしがつかないことは、「殺人と自殺です」』と言っていました。

 『完全自殺マニュアル 鶴見済(つるみ・わたる) 太田出版』
 以下は、感想メモの一部です。
 著者は、2歳年上である兄の家庭内暴力によって、家族関係を破壊されています。著者は精神科受診歴ありです。かなり悩み苦しんでおられます。ゆえに、この『完全自殺マニュアル』なのです。
 つくり笑いかもしれない笑顔の奥に『心の闇』が隠れている。二重人格みたいな人がいます。
 自殺されると、残された家族の心には深い傷跡が残ります。ご遺族の後悔という心の傷は、自ら(みずから)が死ぬまで永遠に消えません。自殺した事実を認めたくない遺族もいます。認めると自分の心が崩壊するからです。

 呻吟する(しんぎんする):苦しんでうめくこと。呻く(うめく)。

 高校生三人が自殺した高校生が最後に読んでいた本を探すのですが、本の題名がわかりません。目撃情報はあるも本の題名まではわからない。本の特徴をピックアップして推理するのです。本の形状やら、バーコードなどです。

 図書館の貸出簿の閲覧(えつらん):原則禁止。思想の自由を侵害しない。(ふと、中国やロシアには思想の自由がないことを思い浮かべました)
 金科玉条(きんかぎょくじょう):金や玉のように立派な法律。大切な従うべききまりごと。
 花色木綿(はないろもめん):はなだ色(明るい薄い青)に染めた木綿(もめん)。主に裏地に使用する。(この部分が推理のヒント。伏線になります)
 
 そうなのか。(前提崩し(ぜんていくずし))
 
 よかったセリフとして、『どうも俺は人を信じるのが苦手だ(にがてだ)……』

『昔話を聞かせておくれよ』
 語り手である『僕』の堀川次郎と名探偵コナン役の松倉詩門がふたりで昔話をします。松倉詩門の父親はなにかを(宝物)を隠して行方をくらまし死亡したらしい。

 松倉詩門が公立高校学費の滞納で学校事務室に呼び出された。

 藪から棒(やぶからぼう):突然に、だしぬけに。藪から棒が飛び出してくる。

 『物語の基本は、復讐と宝探し』
 宝探しをテーマにして、昔話をする。
 松倉詩門の父親は自営業者で、いろいろあって、宝物(現金)をどこかに隠して突然星になってしまった。(亡くなった)。息子である松倉詩門は、父親が隠した現金を見つけたい。でも見つからない。父親がいなくなってから6年が経過している。引っ越しもした。

 岡目八目(おかめはちもく):当事者よりも、横で見ている第三者のほうがよくわかるということ。囲碁からきている。

 佐野:喫茶店の店主。夜はアルコールの店になる。バーになる。

 インク・スポッツ:アメリカ合衆国のボーカルグループ。(ハーモニーを奏でる(かなでる))。1930年~1940年代に活躍した。(昭和5年~昭和15年)

 松倉詩門の死去した父親の手帳が残っている。
 1月2日 古河(こが。茨城県古河市(こがし)) アイサツ
 4月3日 上高地 ハイキング
 5月21日 ハイシャ
 8月1日 熱海 海水浴
 8月16日 古河
 8月17日から18日、那須

 8月19日 父、死去
 
 11月30日 松倉詩門の誕生日
 12月12日 松倉詩門の弟松倉礼門(まつくら・れいもん。タバコに敏感。匂いに敏感)の誕生日

 愛車はカローラだった。
 キャンプはバンを借りた。(車内はタバコ臭かった)
 ふたりは、バンを探し始めますが、松倉詩門の母親に聞いてはいけないとか、6年前にあったバンを探すとか、ちょっと奇妙です。いくら放置してあったとしても、自動車税の納付とか、貸し駐車場の料金滞納とか、いろいろ不自然です。(なのに、発見されました)(次の章、『友よ、知るなかれ』で真相が明らかになります)

 快哉(かいさい):気分いい。痛快なこと。
 あにはからんや:意外なことには。思いがけず。
 
 詩門、礼門、父親の名前で、五分の三。

 紙製のブックカバーがついている文庫本。松本清張の『ゼロの焦点』
 稀覯本(きこうぼん):部数が少なく珍しい本。
 502号室の鍵
 フェルミ推定:わからないものを概算する。
 おためごかし:人のためにするように見せかけて、自分のためにすること。
 雪冤(せつえん):無実を明らかにして潔白を示すこと。

『友よ 知るなかれ』
 市立図書館が出てきます。
 
 『詩経(しきょう):中国最古の詩歌全集。紀元前11世紀から同7世紀のもの』、『礼記(らいき):儒教の経典(きょうてん)。紀元前51年のもの』、『書経(しょきょう):中国古代の歴史書。紀元前659年以降成立』、『易経(えききょう):古代中国の書物。儒教の経典』、『春秋(しゅんじゅう):古代中国の歴史書。紀元前722年から同481年』、『五経(ごきょう):儒学の経書(けいしょ)の総称』
 
 印旛重郎(いんば・じゅうろう):自営業者

 344ページあたり。わびしさがあります。お金がないことのわびしさです。

 貯蓄はいくらあったらいいのだろうかと考える読書です。
 自分も若い頃考えたことがあります。
 たくさん貯蓄があっても使わなければないのと同じです。
 億単位から始まって、だんだん減らしていく。
 たくさんあると、仕事を辞めることを考えてしまいそうです。
 少なければ、仕事を辞めることを思いつきません。
 こちらの物語では、『お金はあるけれど、それは使わないお金』という定義(ていぎ:内容の決めごと)で話があります。
 言質(げんち):のちに証拠となる言葉。
 この物語のような状況で、堀川次郎と松倉詩門の友情は成立するのだろうか。(しないと思います)  

Posted by 熊太郎 at 07:24Comments(0)TrackBack(0)読書感想文