2023年05月10日

余命一年、男をかう 吉川トリコ

余命一年、男をかう 吉川トリコ 講談社

 先日見たテレビ番組『家、ついて行ってイイですか?』で紹介された病気で余命宣告を受けたので、毎日キャバクラ通いをしている男性のような女性版の小説だろうかと憶測しながら読み始めましたが、少し違っていました。
 テレビ番組内の男性は、キャバ嬢である相手を変えながらの複数女性対応でしたが、小説を読み始めたところ、四十歳独身女性である、あと一年ぐらいで、がんで死んでしまうらしき片倉唯(かたくら・ゆい)が、病院待合所で、偶然出会ったホストクラブのホスト(片倉唯よりだいぶ年下)瀬名吉高(せな・よしたか)ひとりに、気持ちを入れ込む内容になっているようです。(まだ62ページまでしか読んでいません。全体で315ページあります)
 おもしろそうです。お金はある。寿命はない。そんな設定です。男は女をかう。女は男をかう。かった異性に対して『愛』はあるのだろうか。
 読み続けます。

 出始めは、投資のすすめのようでもあります。つみたてNISA(ニーサ)ほか、銭を貯める話が続きます。

 片倉唯(かたくら・ゆい):お給料を節約してお金を残したいひとり暮らし四十代未婚、機械商社勤務の女性です。採用後二十年がたつ営業職です。今はひとり暮らしですが、父親がいて、継母がいて、歳が離れた腹違いの弟がいて、実母は病気で亡くなっています。実母もがんだったような書きぶりです。愛称ゆいぴ。父親は税理士事務所経営の税理士です。自分の子どもだからといって、お金に詳しい女性である主人公に税理士事務所のあとを継いでもらいたい気持ちはないようです。父には男尊女卑の意識があります。
 ホストに対する偽名が「ともみ」ですが、すぐに本名がばれます。
 片倉唯の夢は『一生を路頭に迷うことなく過ごしたい』
 片倉唯は、メガネをかけている。メガネの奥には、鳩の目のような目がある。

 瀬名吉高(せな・よしたか):ホストクラブ『デメトリアス(ギリシャにあった古代都市の名称か?)』のどちらかといえば売れっ子のほうのホスト。顔はいい。ゲゲゲの鬼太郎みたいに、シュガーピンク色(ぼんやりとしたピンク色)をして、片方に寄った長い髪で片目を隠しているそうです。髪は、アシンメトリー(左右非対称)にカットされている。青魚色のスーツ。わたしは、天国からの妖精である男子をイメージしました。お店での源氏名(げんじな)は『リューマ(坂本龍馬からきている)』です。
 瀬名家での家族間の愛称は『たか兄(にい)』です。
 父親は、一葉亭という洋食店を三十年間近く営んでいたがコロナ禍で客が減り、さらに脳梗塞で倒れた。麻痺の後遺症がある。老いた母親がいる。お金がない。父親の入院費が払えない。(72万3800円)離婚した妹がこどもを連れて実家に帰って来た。元だんなはDV男。コロすけというのが、いまのところだれなのかがわかりません。(わかりました。コロすけというのは、コロナウィルスのことです)
 妹のこどもは保育園児:名前は『実稲(みいな。呼ぶときはミーナ)』もうすぐ6歳です。家で飼っている犬の名前が『コロ丸(コロッケみたいな色で丸っこい)』

 瀬名吉高の母親:夫の病気入院で、自営の洋食店が開けないので、近所の横井さんのところに行ったら、パチンコ屋のまかないの仕事を紹介されたそうです。

 那智(なち):瀬名吉高の妹。実稲の母親

 丸山:片倉唯の同僚女性。ふたりの子持ち。上の子は男子高校生

 生山課長(いくやまかちょう):ふたりめのこどもができる。

 恭也(きょうや):片倉唯の異母弟

 時代設定は、2020年(令和2年)です。
 コロナ禍の話が出ます。

 片倉唯のひとり語りが続きます。
 お金をいかにして節約して貯め続けるかの話です。こういうタイプの女性はこの世に多い。
 会社から支給された定期券代をポケットに入れて、じっさいは交通機関を利用しません。(歩きです)この場合、うそがわかると会社の規則で処分されます。交通費は不当利得になるので返還しなければなりません。
 この設定で主人公としての魅力はあるのだろうか心配になりました。(その後の展開でだいじょうぶだということがわかりました。逆の意味での主人公らしさがあります。『負(ふ。マイナスイメージ)』の意味での主人公です。おもしろい)
 主人公の片倉唯は、自分のことしか考えない人です。いざというときは、知らん顔をする人です。

 『ゆいぴって、なにが楽しくて生きてるの?』と問いかけられる主人公です。
 質問に対して『楽しくなくちゃ、生きてちゃいけないんですか?』と返答する主人公です。
 周囲の見立てとして『貧乏くさい節約飯を持参する行き遅れのかわいそうな女子事務員』(出勤するのがつらそうです)
 主人公の楽しみは、一日の終わりに資産管理アプリで、資産総額を確認することだそうです。
 二十歳で中古分譲マンションを購入しています。(あと少しでローンが終わるそうです。購入した時は築13年の1LDK。7階建ての3階。都心に近い。現時点では築33年。専有面積は40㎡ぐらい)

 課金(かきん):自分はそういうものをしないので実感がないのですが、お金を支払うことだろうと思っています。
 
 推し(おし):応援することだと受け取っています。アイドル、俳優に好感をもつ。

 『恋愛はコスパが悪いからしたくない。』『結婚も出産も同様の理由でパス。』だそうです。
 熊じいさんは、たまに、考えることがあります。
 結婚生活の苦労を知らない。子育てのたいへんさを体験したことがない。親の介護の苦痛を知らない。そんなふうにして、歳をとった人は、どんなふうなのだろうと。男の人もいますし女の人もいます。
 そして、導き出した答は、少年であり少女のままの意識で、老齢期を迎える人たちだと。
 いいともよくないともいえません。それぞれが、それぞれの判断で選択した人生です。
 配偶者がいてもいなくても、片方が死ねば、最後はひとりであり、最初からひとりであった人と環境は同じだと考えたことはあります。
 困るのは、自分の入院時の連絡先ではなかろうか。片倉唯の場合は、さしあたって父親か。入院中の看護とか介護のこともだれに頼むのかと悩みが発生します。

 『守銭奴(しゅせんど)』と中学の同級生にそう言われた主人公です。

 18ページまで読んできましたが、すごい書きぶりです。
 リベラル:自由主義の。
 お金の話が続きます。
 片倉唯には、たくさんのお金があるようです。
 でも、医師からがん宣告を受ける日が訪れました。
 余命一年です。
 がん発見のきっかけは、満四十歳がん検診無料クーポンの利用でした。

 どうも主人公は、もともと長生きをする気はなかったようです。
 この世にいることに嫌気がさしていた。むしろ短命は歓迎する。『これでやっと死ねる』
 がんの治療はいっさいしないという主張があります。
 23ページにある「手紙」のような文章は、天国で書いているようでもあります。過去のふりかえりになっています。
 
 子宮がん:頸がん(けいがん。さらに、扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん)と腺がんがある。腺がんがやっかい)と体がん(たいがん)の二種類がある)
 喜平ネックレス(きへいねっくれす):喜平は、鎖のつなぎ方。鎖の輪をつないでつぶした昔からあるシンプルなデザイン
 
 タイトルの『男をかう』は、誇張が過ぎるような気がします。(おおげさ。読者の目につくような作戦)ポルノ小説みたいです。
 
 プチプラ:プチプライスの略称。値段が安いを意味する。

 会話の文章がうまい。
 読みやすい。
 この本のことをお茶の間の話題にしたら、うちの家族が作者が書いた中日新聞のコラムがいいとほめていました。

 龍馬パイセンのヴァイブス:坂本龍馬。「先輩」のさかさ読み。のり、テンション、雰囲気

 ああ、東野&岡村『旅猿』メンバーのうちのひとりの不祥事のことが書いてあります。まあ、見た目が小柄で可愛らしいから世間が誤解するのです。もともと性風俗通いをしていたそういう人なのです。男の頭の中はそんなものです。結婚して、今ではあかちゃんのいるパパになりました。過ぎた過ちです。寛容にいきましょう。
 歳をとってくると気づくのです。人間は、どうしてこんなことをするのだろう。結局、こどもをつくるための本能行為であった。愛情の確認ならハグだけでもできると。

 こどものころの主人公を亡くなった実母が『貯金屋さん』と呼びます。ちょっとせつない思い出です。
 
 55ページまで読みました。作者はこの先、どんなふうに話をころがしていくだろう。
 ホストくんは、あんがいいいやつです。
 主人公は、自分の余命をホストに告げ、貸した金(父親の入院費用72万円ぐらい)をホストらしく返済してみせてよと要求します。

 なんだか、ノウハウ本みたいになってきたと感じます。(いかにしてなにかを成しとげるか)

(つづく)

 HPV感染:ヒトパピローマウイルス。性感染症、皮膚病の原因になるウィルス

 片倉唯さんは不倫体験ありです。相手は職場の上司です。(実態は、上司の性欲処理の相手だった)長らく関係があったあと、片倉さんが絶対拒否をしています。それでも相手は今も上司として職場にいます。生活していくためになんとしても、給料をもらわなければなりません。『女』を『モノ』と考える上司です。
 逆の立場の女性として(本妻の立場として)最近読んだ『じい散歩 藤野千夜(ふじの・ちや) 双葉社』を思い出します。浮気ばかりを続けた自営建設会社明石新平さん(89歳)が、認知症になってしまった奥さん明石英子(あかしえいこ)さん88歳に家の中で追いかけられて、ズボンを脱がされて、パンツをひきはがされます。奥さんは夫の不倫を怒っているのです。(おこっているのです)

 ここらあたりまで読んで、この小説は、私がファンの窪美澄さん(くぼみすみさん)のジャンルの小説なのだろうとわかりました。女性の体と健康を扱う小説です。

 主人公の二十代には夢も希望もありませんでした。
 そして、今はもうすぐ41歳です。
 がんで、余命一年です。
 読んでいてさみしくなります。

 人間の体から『心』が失われている状態です。

 ホストの父親の入院費用の立て替え払いをした70万円ぐらいを、労働奉仕をしてもらって、ホストから取り戻す作戦です。
 お金を『労働奉仕時間』で返済してもらうのです。
 一時間が一万円だそうです。
 70時間ぐらいあります。

 89ページ。片倉唯は『エンディングノート』を書くことにしました。リアルな、エンディングノートです。病気で本当に死んじゃいます。

 海外旅行に行きたかった:コロナ禍で行けません。
 国内旅行でさえ、コロナ禍で行けそうにない。
 あと何回なになにができるだろうという自問自答が続きます。
 片倉唯さんは、41歳になってしまいました。
 『帰りたいな』の心のつぶやきは、場所ではなくて、過去に帰りたいのでしょう。(病死した母親が生きていた時代に帰りたい)

(つづく)

 今同時進行で読んでいるのが『宙ごはん(そらごはん) 町田そのこ 小学館』なのですが、かぶる部分があるのです。
 宙ごはんのほうは、本日読んだ部分では宙ちゃんとやっちゃん(宙の実母の中学同級生)が『ホットケーキ』をつくっていました。対してこちらの余命一年のほうは、ホストクラブでホストをしているたか兄(にい)が、オムライスをつくっています。
 宙ごはんのほうは、主人公小学一年生女児川瀬宙(かわせ・そら)の実母川瀬花野(かわせ・かの)に異父妹が出てきます。(宙の育ての親)。こちらの余命一年は、主人公の片倉唯に異母弟がいます。なかなかややこしい。だんだん自分の頭の中が混乱してきつつあります。メモをしてしっかり正確に把握(はあく)しなければなりません。
 
 ホストである瀬名吉高と片倉唯の契約時間が終了しました。72時間、72万円分の奉仕が終了しました。お別れです。(とはいきませぬ)

 片倉唯のがんで死去するための準備が進みます。
 オキシトシン:ホルモン。出産するときに胎児を外に出す働きがある。乳児への授乳を可能にする。
 COVID-19:2019年に発生した新型コロナウィルス感染症の正式名称

 結婚するのか。ふたりは。いいのか。それで。愛情はあるのか。うーむ。
 妻41歳、ホストの夫は、二十代ではなかろうか。(31歳でした)

 『専業主婦は、家政婦であり売春婦である』
 (そんなこと言っていいのだろうか)

 エンディングノートが、ウェディングノートになった。

(つづく)

 片倉唯さんについて、亡くなった実母との思い出があります。
 母を慕う気持ちは強い。
 母の趣味として『キルト』(縫物。手芸。布と布の間に綿を入れて縫う手法)
 母の死後、母がつくったキルトは、継母の手によって捨てられた。(当時、片倉唯は12歳です)
 継母との対立があります。
 自分のことは自分でやるんだという強い自立心が片倉唯に芽生えます。
 166ページにいい文章があります。『音も光もにおいも遠のいて、すべての感覚が怒りに支配される……』
 実父も憎しみの対象となります。実父は、継母をかばいます。

 そして今、片倉唯は41歳、異母弟の恭也(きょうや)は28歳(父の後継ぎとして税理士資格取得のための勉強中)です。

 継母の愛車は銀色のベンツ
 継母は、23歳で片倉唯の実父と結婚した。当時片倉唯は12歳だった。
 現在、片倉唯が41歳、継母が52歳か。
 サプライズとして、継母の名前が『ともみ』です。
 
 片倉唯の実母の墓前にて、
 『このたび、金目当てで唯と結婚することになりました』(けして、瀬名吉高の本心ではない)
 
 片倉唯は、家族にがんのこと、余命一年のことを話しません。
 片倉唯は、病院を受診しません。がん治療を始めません。死ぬつもりです。
 『ママが生きていたら、一人で死のうなんて思わなかったのに』
 
 ひやおろし:秋に飲む日本酒の一種

 さみしい話になっていきます。

 生山モデル:214ページにこの単語がありますが、意味がわかりませんでした。(286ページでわかりました。不倫相手の上司である生山課長のお好みの女性ということでしょう)

 瀬名吉高のピンク色の髪に関する考察があります。

 『私が死ぬとき、だれか泣いてくれる人はいるだろうか。』

(つづく)

 本の中で、分離があります。
 『Ⅱ』の始まりです。
 語り手は、瀬名吉高です。(そうか、そういうつくり(レイアウト)か。
 片倉唯はもうあの世の人になっているのかもしれません。
 219ページから始まります。

 瀬名吉高(顔がいい男。イケメン。ハンサム)の悩み:見た目と中身は違うことで、女性ががっかりして離れていく。女性のほうから近づいて来るけれど、付き合ってしばらくすると『なんか思ってたのとちがう』と言われてサヨナラされる。(顔はいいけれど、しゃべると頭が悪いのがばれる)

 瀬名吉高は、自分のピンク色の髪に誇りをもっている。髪を黒くすると、かなりのイケメンになってしまう。自分の個性(ばかっぽいけど明るい)を出すために、あえて、イケメンを封じている。

 バリイケの経営者:ホストクラブのオーナーは四十過ぎの伝説的ホスト。元モデルの超美人の妻と二人の娘がいる。系列のホストクラブが市内に三店舗ある。

 2020年に瀬名吉高は、片倉唯に父親の入院費を貸してくれてと声をかけた。コロナウィルス騒動が日本で始まった年です。(令和2年)

 231ページにある『地方包括センター』は『地域包括支援センター』が正しいと思われます。瀬名吉高の父親について介護保険制度の利用が必要です。

 22歳のときに父親の洋食店の後継ぎになることを拒否して家を飛び出した。現在、31歳。ホストクラブで働くホストをしている。
 
 スワロフスキー:クリスタルのプレミアムブランド。オーストリア発祥
 
 片倉唯が生きているのかはっきりしない文脈が続きます。
 どうも唯は生きていて、ケンカ別れのようすが見えます。
 (男がこういうふうに思考するだろうかという疑いをもちながらこの部分を読んでいます。女性の作家さんなので、男の考えの表現部分はむずかしいかもしれません)

 霧也(きりや):瀬名吉高の後輩ホスト。コロナウィルス感染拡大後に店に入って来た。霧也は帰るところがない。
 ハイク:ホスト
 瀬名吉高は、ホストの寮で生活しています。結婚した片倉唯とは別居です。
 時雨(しぐれ):ホスト

 いいなあと思った文章です。『……沈黙を恐れるみたいに次から次へと話題をひねり出そうとしているのが伝わってきて……』

 紅白なます:大根の白、にんじんの紅。酢で味付けする。おせち料理
 鬼電(おにでん):瀬名吉高への母親からの電話。ひんぱんにかかってくる電話

 ホストは、消耗品だと自虐的になっている瀬名吉高です。
 先(さき。人生)は長い。今のもんもんとしている状態は、一時的なことでしかありません。

 瀬名吉高は、家族のために(父親の入院、妹の離婚出戻りによる困窮)お金で片倉唯に買われた。
 母と妹は、それが負い目である。(母と妹は片倉唯の病気と余命のことを知らない)
 最初は金目当てだった。
 オワコン:一時は栄えていたが飽きられた。

 285ページ。うまい。
 どういった流れになるのかと不審な思いで読んでいたらドンと厳しい場面に出会いました。
 うまい。

 片倉唯は、死にたい死にたいと言いますが、死にたい死にたいといいつつも、具合が悪いから病院に連れて行ってくれと言っていた高齢者の親族のことを思い出しました。『死にたい』は、自分をかまってくれなのだろうか。
 カネカネカネのお金しか頼れるものがなかったこれまでの片倉唯の人生です。

『エピローグ』
 読んだ人が、自分も結婚しようという意欲が湧いてくる本でした。
 
 無聊(ぶりょう):なにもすることがなく退屈していること。

 『男と女は、顔と金でくっつこうとする』ということはない。

 桜か。
 桜の花びらと命は、かぶる部分があります。

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