2021年06月18日

科学者になりたい君へ 佐藤勝彦

科学者になりたい君へ 佐藤勝彦 河出書房新社

 伝記、自分史のようです。
 「はじめに」の部分を読んだところです。
 33歳で生まれて初めて飛行機に乗ったのが、1979年(昭和54年)のことで、遅い飛行機デビューだと思いました。研究のためにデンマークのコペンハーゲンへ行かれています。現地は日没22時で白夜です。
 筆者は『北欧理論物理学研究所(NORDITA ノルデイタ)』で臨時的雇用非常勤教授として一年間研究をされています。京都大学理学部で助手をされていたそうです。
 
 ご家族がおられるようですが、研究職というのは、家族と一緒に暮らせないイメージがあります。フィールドワーク(現地調査活動)が多い研究もあります。長期出張状態、単身赴任状態になるパターンが考えられます。

 「学者さん」は、その分野における知識や体験は詳しいけれど、その分野以外のことはあまり知らず、その分野以外の話をしても楽しくはないというイメージもあります。
 勉強することが仕事です。深く極める。オタクです。(一点集中で強い興味をもつ)

 宇宙の研究をされている方です。
 本のカバーを見ると、似顔絵が書いてあって、「Stephen Hawking(スティーヴン・ホーキングさん)」の名前が下に書いてあります。
 わたしの部屋に置いてあるこれから読む本が入れられたダンボール箱の中に「宇宙への秘密の鍵」作・ルーシー&スティーヴン・ホーキング 訳・さくまゆみこ 岩崎書店があるのを見つけました。この「科学者になりたい君へ」を読んだら、次に「宇宙への秘密の鍵」を読んでみます。その内容は小学生高学年向きのようです。

 宇宙の始まりの話があります。わたしは、自分なりに、宇宙は146億年前にできて、地球は46億年前にできたと学習して記憶しています。
 14ページに著者の研究では重点的に「宇宙のはじまり」について研究されているそうです。宇宙は約138億年前にできたそうです。自分の頭の中にあるデータを146億年前から138億年前に塗り替えておきます。

 ここに記録しておくとおもしろそうで、わかりやすそうです。宇宙のできかたです。
 約138億年前に、超高温の小さな火の玉が生まれた。
 小さな火の玉は、激しくて急激な膨張(インフレーション理論とビッグバン宇宙論)を続けながら、温度を下げていった。(ふーむ。そうなのか)
 科学では、「結果」が生じた時に、その「原因」を考える。このあたりの文章を読んでいると映画映像を観ているような感じになります。
 『パラダイムシフト』物の見方の判断において、多数派が少数派に負ける。
 『ビッグバン宇宙論』ビッグバンという大爆発で宇宙が誕生した。

 科学者になりたいこどもさんたちへのアドバイスがあります。四国で生まれて、ノーベル物理学賞を受賞された湯川秀樹さん(1907年(明治40年)-1981年(昭和56年)74歳没 理論物理学者 1949年(昭和24年)ノーベル物理学賞受賞)にあこがれて、京都大学に進学し、湯川先生の弟子の先生と師弟関係を結び、研究者になられています。
 日本の科学者の数は、だいたい87万人だそうです。1億2400万人ぐらいのうちの87万人ですから多いとはいえません。狭き門です。日本の医師の数が32万人ぐらいですから、それよりは多い。いずれもやはり狭き門です。
 
 ノーベル賞を取れるような科学者になれるかな? という文がありますが、ノーベル賞は、社会貢献を讃える(たたえる。ほめること)もので、狙うようなものではないと考えました。
 以前、ノーベル賞を受賞された方たちのお話を集めたこどもさん向けの本を読んだことがあります。「ノーベル賞受賞者にきく子どものなぜ?なに? ベッティー・シュティーケル・著 畔上司・訳 主婦の友社」でした。受賞者の方々は、シャイ(恥ずかしがり屋)で人前に出るのが好きではない人がわりと多かったことが意外でした。ふつうの人たちでした。
 強い印象が残っているのは、最後のほうのページにあった数学者の方のお話にはしみじみとしました。娘さんは障害者で、耳が不自由で、精神的にも遅れていると告白されています。でも彼は、娘はすばらしい人間ですと結んでいます。

 「はじめに」の結びの部分に審議会のことが書いてあります。余計なことなのかもしれませんが、審議会という名のもとに学者が集められて、学者が、行政や政治に都合のいいように利用されているような気がしてなりません。昨今の社会情勢をみてそう思えるのです。その見返りが報酬なのでしょうが、そこは大人の世界の話になってきます。大人の世界とは、不条理なこと(あるべき姿に反していること)、理不尽なこと(避けることが無理な圧力に屈すること)、不合理なこと(理屈にあわないこと)に折り合いをつけて生きていくのが大人の世界です。

 さて、読み始めましょう。
「第1章 「ふしぎだな」「おもしろいな」が科学の原点」
 たぶん、同世代の少年たちのなかにも著者と同様の体験をした人も多いことでしょう。でも科学者になれた人は少なかった。
 ゲルマニウムラジオの製作とか、ハム(アマチュア無線)、真空管テレビづくり、科学に関する雑誌の読書(わたしは、「子どもの科学」を読んでいました)
 田舎ゆえに、満天の星空があった。だから、宇宙に興味をもった。
 身近な自然が豊かだったので、動植物に興味をもった少年少女もいたことでしょう。
 この本は、こどもさんというよりも、親御さん(おやごさん)とか祖父母の方たちに読んでほしい本です。著者の場合、親御さんがこどもさんに教育資金を投資されています。こどもの著者がほしい電子部品はほとんどお父さんが買ってくれています。
 学校の先生に質問をする。こどもの質問に答えることが先生の仕事です。(されど、質問をする行為のための質問を続けると相手はイヤな気分になるのでやめましょう)
 「常識を疑う」とあります。過去の偉人たちが、当時の常識をくつがえしてきた歴史があります。
 
 こどものころの本との出会いは大切です。
 ジャンルは無関係です。
 興味をもった世界の本を読んで自分で自分の心を育てます。

 湯川秀樹博士の物理の話が出ます。
 人間の体内にも電気的な物質があるのだろうか。
 本の文章を読んでいると、どうもありそうです。
 『原子核(プラスの電気をもつ「陽子」と電気をもたない「中性子」が集まっている。湯川博士は、その両者をつなぐ役目を果たす中間子の存在を発見した)』のまわりを『電子』が回っている。
 中間子によく似た新粒子(ミューオン)が、宇宙から地球に降り注ぐ『宇宙線』の中に見つかった。
 当時の貧しい国、日本からでもノーベル賞受賞者が出る。湯川秀樹博士は、紙と鉛筆と自分の頭脳だけで中間子論をつくりあげたと記述があります。

 日本人のスポーツ選手が体格や運動能力的になかなか生まれないという考察がありますが、現在はだいぶ変化してきました。見た目は外国人でも日本国籍の人が増えてきました。いいことだと思います。
 若い頃、もし戦争が起こった時のために国籍は厳格に指定しなければならないとなにかで教わった記憶があります(国籍は父系主義)。日本とどこかの国で戦争になったとき、そこの国と二重国籍だったときに敵味方の区分けができなくなるというふうに説明を受けた記憶があります。今となっては、戦争にならないために、一人の人間が多国籍であったほうが平和につながる気がします。
 
 工学部と理学部の違いが書いてあります。
 『基礎物理学研究所』の説明があります。

 英語学習が必要です。
 自分がおとなになってからわかったのですが、なにもネイティブのベラベラ英語を話さなくてもいいのです。文法に従って、カタカナ英語でも、母語(ぼご)が英語ではない人が話す英語とは意味が通じるのです。記号のようなものです。合わせて、中国語ができると役に立つと思います。世界中のなかでいちばん多いのが中国語を話す人たちだと思います。世界の5人にひとりは中国人のような気がします。

 科学者である著者は、「国語」がにがてだそうです。特に漢字を覚えて書くことがにがてだそうです。意外ですが、そういうことってあるのでしょう。

 最後はやはり健康維持について助言を書かれています。
 大量の飲酒とか喫煙はやめましょう。

 この本に書いてあって、ほかの本でも読んだことですが、社会が必要としているのは、「問題を解く能力」ではなく「問題を作成する能力」です。もちろん作成した問題の答も自分で見つけなければなりません。以前社会人になってもすぐ仕事を辞めてしまう大卒生の意見として、ちゃんと教えてもらえなかったという文章を読んだことがあります。答は人に聞くのではなく、自分で苦しんで見つけるものです。
 自分は、お坊ちゃま、お嬢さま世代と呼んでいますが、甘やかされて常にサービスを提供される側にいたせいなのか、いつでもどこでもだれかが自分のことをタダで助けてくれると勘違いしている人たちが増えました。世の中は厳しいのです。短時間の対応なら親切にしてくれますが、長期間の付き合いとなると、人間は冷たい面をもっています。気に入らないと無視するのです。知らん顔をする人は昔からいます。お金を稼ぐためには、そういう人たちともなんとかやっていかねばならないのです。

 ずーっとここまで読んできて、「肩書き」がないと生きていけない人にはなりたくないという気持ちになりました。お互いに相手を先生と呼び合う世界です。

「第2章 大学・大学院で何を身につけるか」
 大学生時代を振り返っておられます。恩師の方たちに謝意を述べることでかなり気を使っておられることが伝わってきました。
 湯川秀樹博士の講義は、ひとり語りだった。学生との対立もあったそうです。昭和40年代は、大学紛争の時代でした。わたしはテレビで大学生たちが暴れまわるのを見ていた下の世代です。白黒テレビの映像を家族で見ながら、あんなふうにはなりたくないと思いました。
 
 「宇宙の始まり」について研究する。
 光:電波。宇宙背景放射。
 宇宙が生まれて約38万年たったころ、宇宙の温度は約3000度だった。
 光の波長が短く、電波の波長が長い。
 サーベイ:調査、測定
 パルサー:中性子星
 太陽より重たい星は、最後に「超新星(爆発)」を起こす。
 読んでいると、宇宙が生き物のように思えてきます。スピード(速度)がものすごく速い。そういうことがあるのかと驚きました。
 ニュートリノ:粒子(りゅうし) 電気をもたない電子
 パンチカード:そういえば、キーパンチャーという職がありました。コンピューターへのデータ入力の方法です。書類をまとめて渡すなんとか式と、キーパンチャーを頼らず、自分で入力するなんとか式というふうに当時は区別がありましたが、もうそのときの言葉を思い出せません。昭和50年代ぐらいのころです。「バッチ処理」だったかなあ。ちょっとわかりません。

 人間の体は、炭素や窒素、酸素などからできている。星の内部の核融合でできたもの。人間の体は星のかけらでできている。そして、体の中には電気が流れていると考えると、人間の体は奇跡であると感じるのです。

 研究者になるためのお話があります。
 基本をしっかりと学ぶ。
 モチベーション(動機)をきちんと保つ。
 「問題発見能力」と「問題解決能力」を身につける。

 友人のお話があります。共感しました。
 まだ、二十代のしたっぱのペーペーのころに、いっしょに泊まりの旅行をしていた仲間たちとは、歳をとってからも付き合いがあります。
 利害関係がからむような立場の相手とは長続きがしません。

 ハワイ・マウナケア山頂の「すばる望遠鏡」
 
 ポスドク:任期付きの研究職ポスト。博士研究員

 学者の世界が「混沌(こんとん。混じり合った状態)」で、官僚(中央省庁に勤務する国家公務員)の世界が「秩序(ちつじょ。決められたやりかたでできた世界)」

「第3章 研究はどのように行うのか」
 無給で研究を続けるポストがあるそうです。家が資産家か、金銭援助をしてくれるスポンサーがいないとやっていけません。芸術家かスポーツ選手のようでもあります。サラリーマンのようで個人事業主です。
 著者の場合、数学教師の奥さんに助けられています。なんていい奥さんなのでしょう。
 無給なので、共働きとは言えませんが、子育ては男子も体験しておいたほうがいい。娘さんを保育園に連れて行くのが著者の役割だったそうです。
 
 研究者のあるべき姿勢が提示されています。
①おもしろいと思ったら徹底的に研究する。
②プロとしての自覚をもつ。(わたしは「プロ」という言葉は嫌いです。「それでもプロか!」と相手を責めるときに使う言葉です。ひとつのことを極める職業につける人はごくわずかです。社会では、浅く広くひととおりたいていのことが7割程度できれば働いていけます。業務内容がある程度把握できることと同時に、面談・電話の応対、車の運転、段取りのプランづくり、期限までに仕上げる計画力ときちょうめんな実行力、金勘定の金銭管理、日誌のような記録をつける、関係機関や人との連絡調整、危機管理、力仕事など、ひとりである程度のことは、なんでもやらなければなりません。チームワークが必要な組織の中では、案外、満点ではなくても合格点に達する能力をもっているオールラウンドプレーヤーが重宝されているのです)お互いの足りない部分を補い合って、能力を統合して仕事をしていくのが組織です。
③苦しみぬく。
④オリジナルの論文を最初に書く(このあとも研究者にとっての「論文」の重要さを力説されています)

 アイデアを生み出すときには、「はやり」から離れることがコツだそうです。「はやり」は現在ですから未来がありません。これから「未来」になるものを探さなければなりません。
 あまり情報交換をしすぎるとアイデアを盗まれそうな怖さがあります。「お金にならない分野(宇宙・天文学」なら大丈夫だそうです。

 読んでいてふと「原子(げんし)」と「細胞」の違いは何だろうという疑問が生じました。
 原子:物質を構成している最小単位。人間の体は、炭素・酸素・水素・窒素・カルシウム・リン・カリユウムなどで構成されている。
 細胞:細胞は原子からできている。(で、たぶんいいのでしょう)

 「力(ちから)」の説明があります。宇宙ができるための力です。ちょっとむずかしい。イメージする力が必要です。
 
 40年ぐらい前の著者が若かったころのお話が続きます。これから研究者を目指す若い人たち向けに書かれている本です。
 洋画「スターウォーズ」とか、「スター・トレック(耳がとんがった人が出てくる。たしかスポックという宇宙人。宇宙大作戦とかいう日本語タイトル。中学生のときにクラスメートの家で夏休みにいっしょにテレビで見ていました)」読みながら、そのほかの漫画などを思い出しました。

 論文がらみで、あまりいい話ではありませんが、むかしスタップ細胞という細胞のことで世間が騒いだことが思い出されました。マスコミの過剰すぎる攻撃にはマスコミ自身も気をつけたほうがいい。人間は間違えることもあります。命を落とすところまで人を追い込んではいけません。

「第4章 科学者をどう育てるか」
 PI:研究主宰者、研究室代表者。Principal Investigator
 大学教員の仕事:①研究 ②教育 ③学務(事務。説明。企画。実施)そのほか講演会、学校への出張授業とあります。なかなか忙しそうです。

 あとから間違いがわかった研究にノーベル賞が授与されたこともあるそうです。驚きつつ、納得する気持ちにもなりました。なんでも与えられた情報を信じて丸のみにすることは危ないことだと考えました。

 アメリカの人口衛星「COBE:コービー」
 宇宙背景放射:宇宙の果てからやってくる電波
 読んでいても専門的なことは理解できませんが、ロマン(夢や冒険へのあこがれ)を感じることはできます。
 
 お金の話が出ます。研究費とか人件費とか。仕事をしていくうえで、お金の話は身近で切ろうとしても切れません。

 スティーヴン・ホーキング:1942年(昭和17年)-2018年(平成30年)76歳没 イギリスの理論物理学者 ブラックホールの研究 車いすの物理学者 学生時代に筋萎縮性側索硬化症:きんいしゅくせいそくさくこうかしょう(ALS)を発症したとされる。
 本では、関連記事として、「無境界仮設」というものについて記述がしてあります。宇宙の始まりは「1点」ではなく、「半球面体の全体」で表されるようなものだそうです。「虚数の時間」という言葉も出てきます。なんだか、星新一さんのショート・ショートを思い出す科学的文学作品の世界があります。
 ご本人と面談されて交友を深められた著者は、ホーキング氏を自己主張の強い人だと感じられたそうです。病気ゆえにしっかりアピールしないとご自分の話を相手に聞いてもらえないと思われていたのではないかと察しました。
 今、手元にホーキング氏の本「宇宙への秘密の鍵」があるのですが、よく見ると、監修のところに著者の佐藤勝彦さんのお名前があります。こどもさん向けの本です。

 学会の変化について書いてあります。
 時代が変化してきています。コロナ禍のことを考えながら読んでいたら、コロナに関する記述も出てきました。
 コロナが終息したとしても、元に戻るものともう元には戻らないものとがあるでしょう。戻らないけれど、新しいやりかたの世界へと進んで行くのでしょう。

「第5章 21世紀の科学者のために」
 この章の部分を読んでいて、著者は「仕事人間」だと感じました。

 URA:リサーチ・アドミニストレータ―。アドミニストレータ:管理者。この本では「軍師」と説明があります。University Research Adominisutoreator

 この章は、「COLUMN5 科学者と「倫理」」以外の部分は、読んでいてもあまり楽しい気分にはなれませんでした。読んでいてもわからないことが多かった。素人にとっては、記述がなくてもよかったような気がしました。
 
 「研究」の不正について書いてあります。捏造(ねつぞう。うそ)、改ざん(これもうそ)、盗用とあります。グレーゾーンもあります。疑わしい場合です。
 人間は「欲(よく)」の固まりですから、不正が起こります。お金がからむとうそが顔を出してきます。
 お金はいらない。お金をあきらめると本物が顔を出します。

 科学が戦争に利用されることに対する抗議があります。『戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明』があります。
 深く考えてみました。「科学者」は、善人なのか。それとも悪魔なのか。原子爆弾や水素爆弾を発明したのは科学者です。科学者は、地球を滅ぼすことができる武器をつくることができるのです。オウム真理教の毒ガスサリン事件を思い出しました。ウィルス感染、細菌感染も同類ではないのか。
 記述を読んでいて、人類の一部の相当発達した知能をもつ人たちの手に地球の生命の未来が握られているのは恐ろしいことです。地球上の大部分の人たちは平和な暮らしを望む凡人です。
 科学ってなんだろう。現状維持、今のままで不便な生活でもかまわないというところまで考えが届きました。あるいは、半世紀ぐらい前の、大半の日本人が自然と共存していたころの生活に戻ってもいいのではないかと思えたのです。ただ、もう失われた自然環境は、完ぺきな状態で、元どおりに回復させることはできそうにありません。  

Posted by 熊太郎 at 07:15Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年06月16日

兄の名はジェシカ ジョン・ボイン

兄の名はジェシカ ジョン・ボイン 原田勝・訳 あすなろ書房

 LGBTのお話だろうか。
 本の帯に「身体不一致。カミングアウトの、その先に……?」と書いてあります。
 LGBT:性的なもの。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と身体の性が不一致の人)
 カミングアウト:表明すること。人に知られたくない自分の秘密を公表すること。

 そんな前知識を得て、本のカバーをはずして、カバーを見て、本の本体の表紙を見ました。
 ひとりの人物が鏡を見ています。自分の想像として、観ている人は男性で、鏡のなかに映っている人は女性に思えました。

 ぼく(主人公)サム・ウェイヴァー。イギリスのラザフォード通りに住んでいる。13歳。この子の一人称ひとり語りで物語は進行していきます。自分は生まれた時心臓に穴が開いていたので治療をした。そのときに兄ジェイソンがころんでジェイソンの左の眉(まゆ)の上に傷ができた。(この傷の部分の記述がとても気に入りました。『これまでずっと、ぼくを愛してくれてきた証拠だ』)主人公には、難読症(なんどくしょう。ディスレクシア)という障害があるそうです。イギリス人ですから文字は全部アルファベットなので、ひらがな・カタカナ・漢字がある日本とは感覚が異なります。
 ディスレクシア:トム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ、トーマス・エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アインシュタインなど。
 ジェイソン・ウェイヴァー:サム・ウェイヴァーの兄。兄だけれど、自分は姉だとカミングアウト(公表)します。17歳。カミングアウト後は、スカーフ、ポニーテール、いわゆる女装傾向に向かいます。
 デボラ・ウェイヴァー:サムとジェイソンの母親。国会議員で内閣の一員。閣僚。
 アラン・ウェイヴァー:サムとジェイソンの父親。国会議員である妻の私設秘書
 ディヴィッド・フューグ:サムの同級生。政治的対立あり。(サムの母親の所属する政党を嫌っている)サムから言わせると「宿敵(サムが7歳のときから対立している)」
 ヘンダーソンおばあさん:すでに亡くなっている。優しかった。ヘンダーソンおばあさんが亡くなって売りに出た家をサムの宿敵ディヴィッド・フューグの親が手に入れて住んでいる。
 ペニー・ウィルソン:小学校一の美人
 ブルータス:近所の犬
 ジェイク・トムリン:自称ゲイ。サムの同級生
 ラウリー先生:歴史を教えている。
 ホワイトサイド先生:数学の女教師
 運転手ブラッドリー
 保健相ヘクター・ダナウェイ
 学校秘書フリン:学校秘書というのがどういう職業なのかわからないのですが、教員よりは権限が小さいように書いてあります。
 ピーター・ホプキンス:サッカー部のリザーブの選手(補欠ということか)
 ワトソン先生:性別のことに関してカウンセリングをする先生。35歳ぐらい。
 サッカーチームのオブライエン監督
 ジェームズ・バーク:サム・ウェイヴァーと同じクラス。性が不一致の兄のことでサム・ウェイヴァーをばかにする。
 リーアム:ジェームズ・バークと同じくサム・ウェイヴァーをばかにする。
 事務員のブラウンさん
 ローズおばさん:母親の二歳年下の妹。独特な考え方と暮らし方をしていて、母とは対立している。なんども結婚・離婚をくりかえしているようです。
 ボビー・ブルースター議員:国会議員である母親の同僚議員。奥さんがステファニー、娘さんが十四歳のローラ
 リーサ・タンブール:サム・ウェイヴァーと同じクラス。いじわるな女子
 アブド:シリア難民。ローズおばさんがめんどうをみていた。
 デンゼルおじさん:ローズおばさんの三人目の夫
 
 あまりおもしろくない出だしです。日本人の自分が読むイギリス文学です。
 オペア(家事や子守りを手伝う住み込みの留学生。ホームスティしている留学生が報酬をもらう制度):家政婦のような感じに受け取りましたが、実態は異なるようです。資産家の家では、こどもの身の回りの世話は、雇われ人が手助けします。記述内容を見ると、労働条件や報酬でけっこう対立があります。選挙運動の手伝いまでは契約にないとオペア(留学生)が抗議します。日本の政治家でもそういうことがあるのだろうか。

 アーセナルのアカデミー:イングランド・プロサッカーリーグに属するチーム。アカデミーは中学生、高校生チーム。この小説のなかでは、ジェイソンが9歳でトライアルを受験しています。(まだ早いと言われています)

 チャールズ皇太子+ダイアナ元妃
 長男ウィリアム王子+キャサリン妃
 次男ハリー王子+メーガン妃
 
 政治的な話、親子関係、自由と平等、ディスカッション(討論)、兄弟愛、18ページ付近まで読んでの出てきた事柄です。
 
 袖の下(そでのした):内緒で送るお金や物。見返りを期待する。融通をきかせてもらったお礼。わいろ。不正な報酬
 多国籍企業:複数の国に生産拠点をもつ企業
 イギリスの二大政党:保守党(現在ジョンソン内閣)、労働党(労働組合が支持層)

 どうして知ったのかわからないのですが、サム・ウェイヴァーの宿敵ディヴィッド・フューグが、サムの兄ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダー(心と身体の性が不一致の人)を教室で教師や生徒にばらしてばかにします。

 ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダーもややこしい。ゲイではないのです。彼は(本当は彼女は)サッカーがうまい人気者のサッカー選手でもあります。美人の恋人もいます。でも、自分では、自分の性が「女性」だと感じている。だけど体は男の体をしている。かなり苦しい。
 ジェイソン・ウェイヴァーのトランスジェンダーを両親は受け入れることができません。とくに母親は「(本人からの告白)話はなかったことにする」と切り捨てます。
 母親に国会議員をつとめる資格はありません。政治家のメッセージは、「自由」と「平等」が基本です。母親は夫に「(長男のトランスジェンダーが)けがらわしい」と吐き捨てるように言います。男尊女卑の観点からいうと、夫が私設秘書という立場にいることもややこしい。いろいろと無理解な母親です。母親息子に対して、二度とこの話はするなと突き放します。

 ヴォーグ:ファッション誌

 『(女王)エリザベス一世は、女性に対する世間の評価を変えたからだ』(女性でも国を治めることができることを示した)

 差別する人と、差別される人と、両者の関係者がいます。
 トラニー:トラニーチェイサー。異性装者
 どうして人間は差別したがるのか。
 数年前に思ったことですが、差別ではありませんが、四十年前ぐらい前にいじわるな人がいて、四十年ぶりぐらいにその人のことを聞いたのですが、やっぱり四十年後もその人はいじわるな人で、人って、何十年たっても変われないんだと悟ったことを思い出しました。
 生まれもった人間の性質は変わらないのです。だから人は、すべての人とは、仲良くはなれないのです。
 
 カフカ:チェコ出身ドイツ語作家ユダヤ人。「変身」「城」を読んだことがあります。

 フェタチーズ:ギリシャの代表的なチーズ。羊、ヤギの乳からつくる。

 旅先として日本を紹介されるとイギリス国会議員の母親から「中華料理は苦手だ(にがてだ)」という返事が返ってきます。世の中は誤解だらけです。ジェイソン・ウェイヴァーが言うとおり、中国と日本は全然別の国です。誤った知識で物事を判断するポストについて権力を行使されるのは怖いです。

 湖水地方:イングランド北西部

 EU離脱:2020年にイギリスが脱退した。(欧州連合)EU構成国として、ヨーロッパを中心にして27か国が加入している。

 ホモを嫌う話が出た時に、アメリカ映画「イージーライダー」が頭に浮かびました。男同士でバイク旅をするのですが、昔はそういうことはホモの人がすることだったようで、そこには誤解があって、そんなことはないのですが、アメリカは銃社会だからそうなるのか、最後はふたりとも撃ち殺されてしまい映画は終わります。アメリカ社会の問題点を浮き彫りにしたのでしょう。こちらの本はイギリスです。どこでも起こる差別です。

 兄の女装傾向は、学校では浮きますが、卒業したら自由です。法令に違反しているわけでもありません。
 兄は将来、作家になりたい。
 なれるんじゃないだろうか。
 兄は、三歳のころから女子トイレに行きたかったそうです。
 
 読みながら思ったことです。
 歳をとってくると、性別がなくなってくる感覚があります。
 だれもが、おじいさんに思えたり、だれもが、おばあさんに思えたりするのです。
 あるいは、中性になるのです。
 男だ女だ、恋愛だといっていられるのは、体に水気(みずけ)があって、ぴちぴちしているときだけのような気がするのです。歳をとると体がかさかさになってくるのです。骨川筋衛門(ほねかわすじえもん)という干物(ひもの)になっていく感覚があります。たぶんだれでもいっしょです。

 母親は、長男のジェイソン・ウェイヴァーを男にしようとします。カウンセリングの受診です(ムダだと思います)

 たまたま新聞にジェンダー(性による差)のことが特集されていました。日本は、管理職とか、議員とか、役員とか責任者の男女比が平等ではなく、ほとんど男性が責任者を務めていてアンバランスであるとありました。
 男女平等のことから考えると確かにそうなのですが、じっくり考えると、すべてその責任が男性にあるとも思えないのです。
 実態を見れば、家庭では、かかあ天下(かかあでんか。夫を尻にしく強い妻)ですし、職場では、女性を敵に回したら仕事は前に進んでいきません。
 また、重い責任をともなうことは男性に背負わせて、負担の軽い位置に自分の身を置いて、自分を守っているようにも見えるのです。
 ただ、これからは、役割分担にこだわらず、女性が仕事に出て、男性が家で主夫をするということもお互いの話し合いでやっていければいいと思います。
 ペースは遅いですが、徐々に男女平等の世の中に向かっているという実感はあります。

 ツイード:毛織物。上着。荒く厚い織物
 マスカラ:まつ毛を強調する化粧品
 
 サム・ウェイヴァーのセリフがおもしろい。『(兄が)ぼくのお姉さんになりたいって言ってる。お姉さんはいりません』
 
 こういった場合、どうしたらいいのだろう。性の割り当て間違いがあるとされる長男のジェイソン・ウェイヴァーを両親が受け入れてくれないのなら、ジェイソン・ウェイヴァーは、高校卒業後家を出て、仲間を探して、仲間といっしょに支え合って生活していくぐらいしか思いつきません。
 以前テレビで、東京に住む若い男性が帰省時に女装して、東北地方にある実家に帰る番組を観たことがあります。お父さんはたいへん驚いておられましたが、ありのままの自分の息子を「そうか」と受け入れました。それが答えです。親にとっての自分の子どもというのは、とりあえず、生きていてくれればいいのです。
 家の中に閉じ込めて外に出さないのは最悪の対応です。

 けっこうハード(重荷)なテーマです。
 女性の側からの男女差別撤廃アピールはよく聞きますが、男性の側からの自分は女性ですという声は少ない。
 
 ジェンダー問題に関して、イギリスは進んだ国だと思うのですが、この小説では、国会議員の女性が、自分の息子のことで、息子を「異端者。異常者」扱いをして、これだけ男とか女にこだわるのは不可解ですが、この小説の中だけのことだと思いたい。

 ジェイソン・ウェイヴァーはひきこもりに近い状態となります。髪型のポニーテールに強いこだわりをもっていますが、彼が寝ているすきにちょん切られてしまったことが引きこもりになった理由です。武士にとってのまげをちょん切られたようなものです。ポニーテールの髪型は彼にとって心の支えだったのでしょう。たしかに彼はうつ状態ですが、まだ完全に病気が完成したわけではありません。やはり家を出る決心をしました。

 中学校で、ジェイソン・ウェイヴァーの弟のサム・ウェイヴァーに対して、性が不一致の兄に関していじめとかばかにするとか、挑発する行為があることが不可解です。当事者は兄です。弟は関係ありません。
 そのことに関して、暴力事件まで起こります。教室内での中学生同士のけんかとはいえ、ただではすみません。小説ではうやむやにされていますが、現実社会で起きれば、学校や親も巻き込んで大騒動になります。
 話の構図がばらばらと崩れていく印象があります。周囲から攻撃されるべきなのは兄であって弟ではありません。兄と弟の個性が一体化しています。
 やがて、親子間の信頼関係もなくなってしまいました。うわべだけをとりつくろうとする両親に対する兄の不信感は強い。『幸せ家族のまねごとなんかできない』
 
 潜在意識:自覚されていない意識
 言葉のあや:間接的な言い回しで、複数のとらえかたができる表現をする。
 156ページ「シドニーのハーバーブリッジに登ったことがある」:以前、現地で旅行ガイドさんの説明を聞いたことがあるのですが、そのときのメモ記録が残っていました。『橋のアーチ部分をよく見ると階段になっているのがわかります。シドニーの高校生は3年生になると、胆だめしで深夜この階段を使って、橋を渡ると聞きました。本当は歩いちゃいけない場所なのでしょう。 (その後新聞で、この階段を歩くツアーができたことを知りました。命綱や安全ベルトをつけて歩くそうです。スリルと絶景を味わうことができるでしょう)』

 265ページあるうちの212ページまで読みました。
 すがすがしい展開になってきました。
 ジェイソン・ウェイヴァーはロンドンの自宅を出て変わり者の叔母の家へ行きます。
 ロンドンの家の人間は、ジェイソン・ウェイヴァーをまるで、最初からこの世にいなかったもののように扱い、自分が女性だという兄は、忘れ去られた存在のようになります。母親が息子を心配する声が少し出ますが、100パーセントそう思っているのかは疑わしい。母親は長男のジェイソン・ウェイヴァーに「男性」として帰って来てほしいのです。そこを読んでいて思ったことです。日本でも昔の大家族で兄弟姉妹が多いと、本人自活後、親と疎遠な関係になる人もいました。冠婚葬祭で顔を合わせなくなると親族でも何十年間も会うことがなくなります。
 ジェイソン・ウェイヴァーは変わります。でも、幸せそうです。

 セーシェル諸島:インド洋に浮かぶ島々。アフリカ大陸の東、マダガスカル島の北
 オートクチュール:オーダーメイドの服飾。注文でつくる一点もの。高級仕立服。
 ガーデナー:庭師
 クレアラシル:ニキビ治療薬
 モノポリー:ボードゲームのひとつ。不動産取引。相手を破産させることが目的
 バジル:メボウキという草。甘くフレッシュな芳香
 黄金の羅針盤(おうごんのらしんばん):イギリスのファンタジー小説
 ペアレンタル・コントロール:SNS機器の使用を親が監視して制限する。

 武士の魂である「ちょんまげ」をちょん切られるような屈辱をポニーテールのしっぽ部分をちょん切られると表現してあるとうけとめました。見た目は男ですが、ジェイソン・ウェイヴァーにとって、ポニーテールは、女子としての「誇り」なのです。ローズおばさんは、サム・ウェイヴァーにお説教をします。兄のポニーテールをちょん切ったのは弟のサム・ウェイヴァーだからです。
 ローズおばさんは寛容な人です。ジェイソン・ウェイヴァーは、女性になって、再び姿を現しました。ジェイソン・ウェイヴァーは、ホルモン治療もして、完ぺきに女性になる決心をしました。
 良かったセリフとして、『……今はしっくりきてる』『……パンツの中がどうなってるかは、なんの関係もないってことがわからないのか?……』『……まわりが変わるのを願うしかないのかもな。世間の人たちはそんなに残酷じゃない、もっと親切なはずだ、ってね。……』
 そして、ジェイソン・ウェイヴァーは、もう男に戻るつもりはありません。
 読んでいて、しみじみとして、胸にじーわーとくるものがあります。

 イギリスロンドンダウニング街十番地:イギリス首相が居住する首相官邸の所在地

 224ページ付近を読んでいて思ったことです。
 先日とある日本映画を観ていて悟ったことです。同様の趣旨である記述内容がこの本にあります。
 不条理なこと(あるべき姿に反していること)、理不尽なこと(避けることが無理な圧力に屈すること)、不合理なこと(理屈にあわないこと)に折り合いをつけて生きていくのがおとなの世界です。
 ただ、この本は小説ですから理想とする結論へと話は進んで行きます。

 男が男であること。女が女であること。それが「普通の家族」という意見が出ます。
 すさまじい差別があります。
 信頼している人からの裏切りもあります。
 スキャンダル(名誉と立ち位置がくずれていくような出来事。世間体を損なう。恥さらし)で失脚、失速していきそうな政治家の姿があります。
 人間をいたぶる(痛めつける)ことに快感をもつ人間がいます。
 トランス(ジェンダー):生まれつきの性の不一致
 兄を家から追い出したという話が出ます。母親が言います。『追い出したとは言えないが、ここにいられないようにしてしまった。』『わかってあげようと努力すべきだった。』
 
 イギリスの人口:約6560万人(本書では6000万人)

 ロミオとジュリエット状態が発生します。
 されどサム・ウェイヴァーは、まだ中学生です。

 ラスト付近は、感動的なシーンです。
 『ジェイソンなんていない』『兄さんの名はジェシカだ』  

Posted by 熊太郎 at 06:43Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年06月14日

水を縫う 寺地はる

水を縫う(みずをぬう) 寺地はるな 集英社

 第一章から第六章まであります。
 第一章を読み終えて、ぼんやりと本のカバーをながめていました。
 男子高校生が木製椅子のそばに立って横を向いています。
 (そうか、裁縫好きの男子高校生が水を縫うという設定なのか。男子高校生の足もとには水たまりのようなものが広がっており、下のほうには針と糸の絵があります。糸は赤い糸ですから縁結びの糸でしょう。なお男子高校生はオカマではありません)

「第一章 みなも」
 離婚母子家庭に母方祖母が同居する四人家族です。舞台は大阪、寝屋川市とか門真市(かどまし)とかの地名が出ます。
 松岡清澄(まつおか・きよすみ):高校一年生 十六歳 祖母や離婚して出て行った父親の血筋なのか手芸が好きで得意。「女子力高すぎ男子」されどオカマにみられるらしく学校では孤独な雰囲気あり。家事は料理担当。一歳のときに両親が離婚。以降父親は、外で会う人となる。離婚原因は夫のだらしなかった生活にあるらしい。
 松岡文枝:松岡清澄の祖母。家事は料理担当
 松岡さつ子:松岡清澄の母親。市役所「子育て支援課」勤務。家事は掃除担当。おそらく四十代始め。
 松岡水青(まつおか・みお。父親が二十二歳のときのこども。できちゃった婚):松岡清澄の姉。学習塾の職員。紺野という男性と結婚予定。家事は洗濯担当。四月にウェディングドレスの話が出て、結婚式は十月です。二十三歳
 高梨全(たかなし・ぜん):松岡さつ子の別れた夫。こどもたちの父親。四十歳過ぎぐらい。家庭に難(なん。普通じゃない事情)があったらしい。金銭感覚がおかしい。
 宮多雄大:松岡清澄のクラスメート。出席番号順が近いだけの関係だが、松岡清澄に積極的に声をかけてきた。小学校一年生の弟がいる。弟の名前が「颯斗(はやと)」
 高杉くるみ:松岡清澄の幼なじみ。小学校・中学校がいっしょ。背が低い。「石」が好き。変わり者か。教室の中では孤独らしい。父親が中学校の先生
 井上賢人(いのうえ・けんと):松岡清澄と同じクラス。寝屋川中学校出身。趣味は映画鑑賞
 小野結実香(おの・ゆみか):松岡清澄と同じクラス。特技はバスケットボール
 マキちゃん:祖母松岡文枝の中学の同級生。フラダンスを習っている。七十四歳(身近にフラダンスをするそういう人たちがいるのでリアルに感じました)
 黒田:高梨全の雇用主であり、高梨全と同居している家主。親から受け継いだ株式会社黒田縫製の社長。未婚

 アロエ:サボテンみたいな植物。薬にもなる。食べることができる。健康食品
 パキラ:観葉植物。ビワの葉っぱみたい。

 松岡清澄は、結婚式で姉が着るウェディングドレスを縫って手づくりしたい(素敵な話です)
 
 高校生の進路としておおまかに三つの選択肢があります。
 ①とにかくすぐにお金がほしいから大学進学をせずに就職する。
 ②お金がないから奨学金やバイト収入をあてにして大学に進学する。
 ③とりあえず就職して、お金を貯めてから大学へ入学する。
 半世紀ぐらいの昔は、④として夜間大学への進学がありましたが、今は少なくなっているような気がします。ほかには、今だと専門学校への進学もあるのでしょう。

 うまくいかなかったけれど、服飾関係で仕事をしていたらしい父親と家族との微妙な気持ちのかけひきがあります。

 ミントタブレット:ミント味の食べ物。リフレッシュ、さわやか味
 パタンナー:デザイナーがデザインした洋服の型紙をつくる職業。
 スタイリスト:衣装、髪型、小物などをコーディネート(調整)する職業

 亡くなりましたが、ファッションデザイナーの山本寛斎(やまもと・かんさい)さんのイメージあり。

 共布(ともぬの):洋服の端切れ(はぎれ)服の補修に使用する。

 読みながらしみじみしてくる感覚があるのですが、歳をとってみると、あのときは言えなかったことが、今になって、言えるようになったということがあります。当時の本音を相手に話してみると、案外、相手やまわりのことを誤解していたり、錯覚だったりしたことが判明します。悩んでいたことの内容が勘違いであったことに気づくのです。
 以前アフリカ大陸をひとり旅した女性の手記を読んだことがあります。ジャングルで迷子になってとても怖い思いをしたのですが、出会うアフリカの人たちはみな親切で、自分が勝手に相手は怖い人たちだと先入観で思い込んでいたとありました。そして、世界は、誤解と錯覚で成り立っているという考えを記述されていました。あわせて、アフリカの国境は先進国が勝手に線引きしたもので、そこに住んでいるアフリカの人たちには、国境線という線は、頭にはないと書いてあったと思います。

 高杉晋作(たかすぎ・しんさく):1839年(天保10年)-1867年(慶応3年)27歳没 江戸時代末期の長州藩士(ちょうしゅうはんし。山口県)幕末の尊王攘夷(そんのうじょうい。天皇を尊び、外国を追い払う)を主張する武士。軍事担当。肺結核で死去

 名文句として「学校以上に、個性を尊重すること、伸ばすことに向いていない場所はない」「磨かれたくない石もある」「(趣旨として)さびしさをごまかすために、好きでないことをするのは、もっとさびしい」
 これはこうでないといけないという「標準化」を求める学校教育に背を向けたい。

「第二章 傘のしたで」
 学習塾で事務職をしている長女松岡水青(まつおか・みお)の語りです。年齢は、二十一歳でしょう。
 婚約者のことが書いてあります。コピー会社営業職の紺野さんです。
 離婚して家を出て行った父親のことが書いてあります。父親を否定して、父親に会うことを避ける松岡水青(まつおか・みお)さんです。デザイナーくずれの父親からのプレゼント「水色のワンピース、小学六年生のときのクリスマスプレゼント」に強い拒否反応がありました。
 手芸や裁縫が好きな弟松岡清澄(まつおか・きよすみ)くんの「女子力」が強い。
 姉の松岡水青(まつおか・みお)さんは、人から「かわいい」と言われたくない。「女の子」という目で男性から見られたくない。それは、痴漢被害者体験やセクハラ対象にされるイヤな思いがつのったからでしょう。男から見て、性的魅力を感じられるような女子になりたくない。
 痴漢行為やスカート切り、チンチン見せたがりなど、ヘンな性癖をもつ男たちがいます。
 被害者女性のほうの服装や言動が良くなかったのではないかと、被害者のほうが悪く言われて責められる理不尽なこともあります。
 
 おもねるような:人に気に入られるようにふるまう。

「第三章 愛の泉」
 今度は、母親の松岡さつ子さんの事情です。
 マスオさん状態で、できちゃった婚をしたけれど、デザイナーになりたかったけれどなれなかった服飾関係営業職の夫を家から追い出して離婚しています。元夫は家庭的には恵まれていなかったようです。理解のないご両親について書いてあります。

 妊娠32週で結婚祝いをもらった:通常は、37週から41週で出産

 あかちゃんの誤飲対応があります。誤飲の対応はたいへんです。事故死させるわけにはいきません。口から異物を取り出すために、生えてきた歯で指を強く噛まれて痛い思いをした自分の体験が思い出されました。

 諒々と(じゅんじゅんと):よくわかるようにくりかえし教える。

 いい文節として「あれが嫌だった。これが嫌だったという気持ちだけは、今なお鮮明だ。」読み手に気持ちがよく伝わってきます。

 かまびすしい:うるさく、不快

 家族から(元夫、長女、長男、母親)大事にしてもらえない女性の苦悩があります。

「第四章 プールサイドの犬」
 七十四歳の祖母松岡文枝さんの事情です。松岡文枝さんのこどものころのお話は、自分にも類似体験があるのでなつかしい。
 『世界は、男のものと女のものにわかれているのだと知った。』性差別の話を扱うことがこの小説の主題です。
 リネン:植物である亜麻(あま)の繊維を原料とした布織物
 鱧(はも):うなぎみたいな銀色に輝く魚
 リッパ-:小型の裁縫道具。はさみの代わりに縫い目などを切る。
 
 高校一年生手芸と裁縫が得意な松岡清澄くんは、おばあちゃんにも、だれにでも心優しい。
 
 いい本です。今年読んで良かった一冊です。

「第五章 しずかな湖畔の」
 第五章を今、読み終えたところです。たいしたものです。とてもこんなふうに上手には書けません。
 離婚して出て行った松岡さつ子さんの元夫全さん(ぜんさん)の雇用主で親から引き継いだ株式会社黒田縫製で社長をしている黒田さんの語りです。服飾専門学校の同級生だった縁で、高梨全さんとふたりで暮らしています。黒田さんは未婚で四十代を迎えています。
 
 一人称パターンのひとり語りで、語る人物を変えながら「章」をつないでいく手法です。角田光代さんとか乃南アサさん(のなみあささん)、窪美澄さん(くぼみすみさん)、町田そのこさん、柚月麻子さん(ゆづきあさこさん)とか、その他いろいろな人の書き方です。作者が登場人物にのりうつる手法です。読み手にとってはわかりやすい。
 雰囲気としては、「線は僕を描く(せんはぼくをえがく) 砥上裕將(とがみ・ひろまさ) 講談社」作品と同じ空気感があり落ち着きます。たしか、線は僕を描くでは、同時に交通事故死したご両親のことで、青年が長い時間をかけて、自分の気持ちに折り合いをつける物語でした。

 ナチュラル系:ファッション。ありのまま。着飾らない。派手ではない。
 せわしない:落ち着きがない。忙しそう。
 アオスジアゲハ:羽の黒い下地に海色(うみいろ)のブルーが縦に並んだ模様のアゲハチョウ
 歪(いびつ):ゆがんでいて正しくない。
 一介の(いっかいの):つまらない。取るに足らない。
 
 黒田社長と元夫の高梨全さんは、漫才コンビのようです。
 掠れる:かすれる。声がうまく出ない。

 178ページにある『これぐらいしか、してやれない。……声はなぜか、ひどく掠れている(かすれている)』の部分は、胸にぐっときました。

 ボディ:ファッション。マネキンの上半身の部分だけのものだろうと解釈しました。

 読んでいて、ふと、親子関係をつなぐものって、なんだろうと考えました。

 ジョーゼット:ちりめん(ちぢれた感じの織物)の織物。薄く、軽く、ゆるやか。
 チュール:女性用のベール、帽子に使用する。絹、ナイロンでできた薄い編状に縫った布
 ギャザー:ひだ。ひだを寄せる技法。布を縫って縮めたもの。
 プリーツ:ひだ。折り目
 トラペーズライン:裾(すそ)に向かうにつれて広がりをもつシルエット
 シーチンク:もとは敷布用平織り生地。シーツ。衣服の仮縫い生地
 ホワイトワーク:白い布に白い糸で刺繡を(ししゅうを)施す(ほどこす)。
 サテン:ドレスでよく使われる生地。なめらか。上質。高級感あり。
 
 ほっとする文章です。大阪らしい空気感があります。

 「家族」とはなにかという話になっていきます。
 毎日いっしょにごはんを食べて、お互いのことを心配しあいながら、これからもずっといっしょにやっていく人たちのこと。

 十六歳高校一年生である松岡清澄くんの個性設定がいい。
 『外にはお父さんがふたりおるような感じがしてた……』は、なかなか言える言葉ではありません。

「第六章 流れる水は淀まない」
 淀む(よどむ):水が流れない状態。濁る(にごる)。汚れる。

 最後は、松岡清澄くんの語りです。
 
 ドレープ:布をたらしたときにできる、ゆったりとしたひだ
 フリル:衣服の裾(すそ)、襟(えり)、袖口(そでぐち)にほどこされる装飾
 こぎん刺し:青森県津軽に伝わる技法。青い麻布に白い糸を刺して模様を形成する。
 ルーマニア:東南ヨーロッパ。黒海の西。バルカン半島諸国のひとつ。
 
 心に沁みる(しみる)文脈が続きます。
 『中学生までのぼくはいつもひとりだった(男のくせに、裁縫や手芸が好きだったことから)……』
 (裁縫や手芸ができない)母親の言い分として『なにかに手間をかけることが愛情や真心のあかしだと思わないでほしい……』
 こどもが何歳になっても、母親にとっては、こどもはこどもなのか。
 『こどもの心配をするのが親の仕事や』
 『ひと針目はちょっと勇気がいったけど、あとは勝手に手が動いた(考えなくても体が反応して導いてくれる)』

 そして、「そうか」と意味がわかります。

 『好きなことと仕事が結びついてないことは人生の失敗でもなんでもない……』松岡清澄くんの父親のことだろうか。

 件(くだん):特定の事柄。この本では、「件(くだん)の直談判(じかだんぱん。母親が保育園の先生に抗議した件(けん))234ページ」

 お母さんの肺炎の症状の記述が、もっと濃厚なほうが、病気の状態がよく伝わってきたと思います。

 カスタードクリーム:卵、牛乳、砂糖、香料などからなるカスタードソースを使ってつくったクリーム。薄黄色でとろりとしていて甘い。

 『刺繍(ししゅう)は、祈り』  

Posted by 熊太郎 at 07:33Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年06月11日

はじめて読む科学者伝記 牧野富太郎 日本植物学の父

はじめて読む科学者伝記 牧野富太郎 日本植物学の父 文・清水洋美 絵・里見和彦 汐文社(ちょうぶんしゃ)

 以前テレビ番組「出没!アド街ック天国」『大泉学園』でこの方のことが紹介されていました。出演者の方が熱っぽく、牧野富太郎さんの偉大さについて語っておられたことが印象的でした。

 本のカバーには、優しそうな笑顔のおじいさんが描かれています。こんなふうになって老後を送りたい。

 41ページまで読んだところです。読みながら感想をつぎたしていきます。
 かなり大量な量の情報が、本に落とし込んであります。中身の濃さが伝わってきます。
 いわゆる「オタク(ひとつのことに集中する)」の人の伝記という位置づけで読んでいる気分です。動物が好きという人はよく聞きますが、植物がものすごく好きという人は、自分の人生では一人しか知りません。製薬会社で働いていたことがある人でした。植物と薬は関係があるのでしょう。

 さて、本のカバーをめくると、ご本人の白黒写真が出てきました。昆虫採集のようなかっこうをされていますが、昆虫採集ではなくて、植物採集のお姿です。肩から採集した植物を入れる鞄のような箱をぶらさげておられます。

 絵を描く才能あり。小学校を二年で中退したけれど、東京大学に出入りしていた。いったいどういう人だろう。
 研究のためにどしどしお金を使い、地元の名家として裕福だった実家の店(酒蔵と小間物屋「見附の岸屋(みつけのきしや)をつぶしてしまったあと、妻と六人のこどもたちは、借金取りに追われる貧乏暮らしをしたとあります。そこだけ読むとなんとひどい人だろうということになります。でも、偉人なのです。九十四年間の人生をまっとうされています。(ご長寿にあやかりたい(自分も同じようになりたい。うらやましい))

 竹蔵:実家のお店の番頭さん
 成太郎(せいたろう):牧野富太郎さんの小さい頃のお名前
 浪子(なみこ)さん:牧野富太郎さんの祖母(江戸時代の生れ)おばあさんがすばらしい。牧野富太郎さんがねだった高価な『重訂本草綱目啓蒙(じゅうていほんぞうこうもくけいもう)小野蘭山(おのらんざん)著』という本を孫である牧野富太郎さんに買い与えておられます。
 自分の体験として、二十年ぐらい前、電気屋さんで、たぶん孫であろう女子高生がおばあさんにノートパソコンを買ってほしいとねだっていたシーンを思い出しました。おばあさんはパソコンの値段を見て自分でアルバイトをして買ってくれと返答していました。予想以上に高価だったのでおばあさんはたじろいだのでしょうが、おばあさんはたぶんノートパソコンを買うぐらいの貯金はもっていただろうし、そのとき、おばあさんは、もっともっとたくさん貯金をもっていたと思います。たくさんお金があってもほいほいとお金を使えない世代です。もったいない精神が強い世代なので、しかたがないのでしょうが、買ってあげられるものなら買ってあげたほうが、お孫さんのためになるのにと残念な思いをしたことを思い出しました。もし買ってあげていれば、きっとお孫さんはおばあさんに一生感謝してくれたと思います。死んでから相続でお金を渡すよりも生きているうちに渡したほうがいい。へんなことを思い出してしまいました。
 もうひとつは「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子作品では、長女に孫の教育資金をねだられたおばあさんがそのお願いを断ります。ところが、おばあさんは、長男のなりすましでオレオレ詐欺の電話がかかってくると大金をオレオレ詐欺に渡してしまいます。たしか250万円ぐらいでした。長女は、本物の娘には頼んでもお金の援助をしてくれないくせに、他人のオレオレ詐欺には大金を渡すのかと激しく怒ります。あわせて、お金を、長女には出さないのに長男には出すのかと怒ります。いろいろあります。それもまた年寄りの生き方でもあります。

 たくさんの植物の本が次々と出てきます。

 牧野富太郎さんの略歴
 1862年(江戸時代 文久ぶんきゅう2年)土佐(のちの四国高知県)の佐川村(高知市の西。現在は佐川町)で誕生。1868年が明治元年。
 坂本龍馬:1836年(天保6年)-1867年(慶応3年)。1868年が明治元年。土佐藩士。幕末から明治にかけての国づくりに貢献した。
 自分が明治時代のことを頭のなかで思い描くときは、夏目漱石さんの年齢が、明治の年数と一致するので参考にしてイメージをつくっています。
 六歳までに両親と祖父を病気で亡くされています。少年牧野富太郎さんのお顔は、バッタに似ていたそうです。「西洋のハタットウ(バッタ)」と呼ばれていたそうです。
 十歳になる頃から「寺子屋」で文字を習う。その後「名教館(めいこうかん)」という塾で学ぶ。本から知識を得ておられます。
 堀見:牧野富太郎さんの親友
 十七歳:高知市内の「五松学舎(ごしょうがくしゃ)」で学ぶ。
 永沼小一郎:高知の中学の先生。牧野富太郎の恩師。このころの中学は、12歳から5年制です。その上に補習科1年制がありました。
 ラテン語:イタリア半島の古代ラテン人が使っていた言葉で、ヨーロッパ、アフリカ大陸北部地域に広まった。
 明治14年(1881年):19歳になった牧野富太郎さんは、高知から蒸気船で神戸へ行き(当時は海上交通が発達していたのでしょう)、神戸から蒸気機関車で京都まで行き(明治十年(1877年)に神戸-京都開通)東京をめざしたのです。
 京都から三重県四日市までは歩いて行き、四日市から神奈川県横浜までは蒸気船に乗り、横浜から東京新橋までが蒸気機関車でした。
 牧野富太郎さんは商家のあととりお坊ちゃまだったので、付き添いとして、番頭の竹蔵の息子熊吉と会計係としてもうひとりが付いたそうです。19歳の息子への体験投資です。海外研修旅行のようなものですな。
 帰路は、横浜から東海道を、植物を集めながら京都まで歩いています。無限の資料となる草木が生えていたことでしょう。
 明治時代に歩けたということは、現代でも歩いて行けるということです。以前、原付バイクで、何日もかけて東海道を往復をしたという女性がいたという話を聞いたことがあります。そういえば、充電バイクの旅の旅で、出川哲朗さんがかなりの距離を充電バイクで移動されています。

 シーボルト:1796年(寛政8年)-1866年(慶応2年) 70歳没 ドイツの医師、博物学者 1823年(文政6年)に来日1828年(文政11年)に帰国。1859年(安政6年)再来日。1862年(文久2年)帰国
 マキシモヴィッチ:1827年(文政10年)-1891年(明治24年) 63歳没 ロシアの植物学者 1860年来日。1864年離日。長崎でシーボルトと会う。
 1881年(明治14年)に東京上野で、第二回内国勧業博覧会(ないこくかんぎょうはくらんかい)開催。入場者数約100万人
 岩崎弥太郎(いわさき・やたろう):1835年(天保5年)-1885年(明治18年) 50歳没 高知県出身 三菱財閥の創業者

 いごっそう(土佐の人の気質):大胆不敵で豪快で、……まっしぐらに進む。やりたことをやり、やりたくないことはやらない。(なんだかわがまま勝手に思えます。やりたいことをやりたいようにやれたら人生に苦労はありません)
 
 牧野富太郎さんが二十歳のときにつくった自分への15の約束があります。読み手として簡略に書くと①忍耐 ②精密 ③草木の博覧(観察) ④書籍の博覧(読書) ⑤「植物学」を中心においた周辺学問の学び行為 ⑥洋書から学ぶ ⑦画図を描く ⑧師に教えを乞う ⑨ケチであってはいけない ⑩足を運ぶことをいやがってはいけない(「めんどくさい」という言葉は禁句。手間をおしんではいけない) ⑪植物園をつくる ⑫仲間をもつ ⑬人の声に耳を貸す ⑭書に書いてあることをうのみにしない ⑮生き物を創造したという者の存在を信じてはいけない(科学的であれ)

 大きなお店の後継ぎとして生まれてきたのですが、高知県から東京へ出て植物の研究をしたい牧野富太郎です。後継ぎの苦悩があります。
 祖母はここでも牧野富太郎さんのよき理解者でした。明治十七年(1884年)二十二歳の牧野富太郎さんを東京へ見送っています。
 
 東京大学の学生でもない牧野富太郎さんが、先生の好意で、植物学研究所のメンバーに加えてもらっています。不思議でした。明治時代という自由を尊重する変化の時期だったからできたのだろうかと推測しました。「植物学研究所」には、いつも草木の標本の束(たば)が積み上げられていたそうです。光景が目に浮かびます。教室の別名が「青長屋」だったそうです。(ただやはり、部外者ゆえにトラブルとなって、75ページで、牧野富太郎さんは植物学研究所への出入りを止められています。組織にはルールと秩序があります。部外者は好まれません。失望した牧野富太郎さんは知り合いのロシア人植物学者マキシモヴィッチさんを頼ってロシアへ渡ろうとしますがご本人が病死されてそれもかないません。そのときに関係した東京にあるニコライ堂というロシア正教会を自分も観光で訪ねたことがあるので牧野富太郎さんの存在を身近に感じられました)

 この物語は、学者さんのお話です。

 牧野富太郎さんが二十五歳のときに、彼の世話をしてくれた祖母が亡くなっています。

 もともと名前がない植物に名前を付けて、整理整とんの記録を付けていく。なんでもそうだったのでしょう。昔、南米ブラジルに移住した日本人は、移住先の滝に名前がなかったので、自分で太郎滝というような名前を付けたと本で読んだことがあります。
 北海道開拓民もそうなのでしょう。昔はそういった何もないところに何かをつくっていく楽しみがあったと考えるのです。牧野富太郎さんの目標は植物図鑑をつくることだったと思います。

 本の出版の話が出てきます。

 結婚話が出てきます。牧野富太郎さんはお酒が飲めない体質で、お菓子が好きだったそうです。お菓子屋の娘さん「壽衛(すえ)さん」と結婚されています。牧野富太郎さんが「明治二十一年(1888年)二十六歳でした。

 根岸:東京都台東区鶯谷(うぐいすだに)駅あたり。上野の北

 江戸川の土手で植物に関する新しい発見があります。遠くまで行かなくて、案外身近なところに大きな発見があるものです。

 72ページと73ページにある見開きの図は、緻密(ちみつ)で丁寧(ていねい)です。愛情がこもっています。

 人脈が必要です。

 植物研究しかできなかった人ということはあります。一芸に秀でる(ひいでる)人は、一芸はできるけれど、そのほかのことはできないということもあります。まずもって、学者生活はできるけれど、利潤を追求するための企業戦士であるサラリーマンには向かない性格・性質というのはあります。
 家業を継ぐのはむずかしい。
 やはり跡取りとしての役割を果たすことができず、自営の事業を閉じておられます。
 頼る基本は血縁・地縁です。
 借金をする人は多い。そして、返済をしない人もある程度おられます。それも世の中であります。もう返済してもらわなくてもいいとあきらめる人もいます。世の中いろいろです。
 なんというか激しい人生です。借金があるのに、子どもを十三人もつくって、そのうち病気で七人が亡くなり、六人が残り、奥さんも亡くなっています。四十八歳のときに大学助手は解雇されています。こどもが多いということは成長したこどもが稼いでくれるということですが育てる手間ひまがかかります。明治・大正の時代ですから、いまよりも男尊女卑の傾向が強かったと思います。奥さんはご苦労されました。奥さんの決断と決定があって、牧野富太郎さんは奥さんに支えられました。700坪(約2310㎡)の土地を東京武蔵野の大泉村で手に入れておられます。牧野富太郎さん64歳、奥さんの壽衛(すえさん)52歳だったそうです。そこが、この文章の冒頭に書いたアド街ック天国の番組につながりました。奥さんはそれから2年後の昭和3年に54歳ぐらいで亡くなっています。
 牧野富太郎さんについて、自分はこの本を読んでいて、はた(一歩距離をおいて)で見ていてつき合うのには楽しくていい人ですが、一緒に仕事をしたいというタイプではありません。かなり負担をかけられそうです。
 敵が半分、味方が半分、それでよしという生き方があります。そんな生き方をされた人です。

 スポンサー(金銭的支援者)が必要です。
 
 いい文章があります。趣旨として、草木は美しい。花も美しい。美しいものを見れば、心がゆたかになる。

 明治42年(1909年)47歳 植物採集会を開催。横浜、東京が舞台です。

 植物に関して博学な方ですが、その活動から、地理にも相当詳しかったと思われます。

 読んでいると魚類学者、タレント、イラストレーターの「さかなクン」を思い出します。牧野富太郎さんとタイプが似ています。

 「出版」へのこだわりがあります。本をつくることの意義として、広く知識を広めること。成果を次世代のために財産として遺す(のこす)ことがあります。
 大正五年(1916年)54歳 「植物研究雑誌」が誕生
 大正十二年(1923年)関東大震災 61歳

  135ページの写真にある牧野富太郎のうしろにはものすごい数の植物標本が積み上げられています。驚きました。やはり何事も観るものを圧倒させる物量の迫力が説得力として力を発揮します。

 昭和14年(1939年) 77歳で東京大学の講師を退官。日本が第二次世界大戦に参戦するのが昭和16年(1941年)です。79歳の牧野富太郎さんは中国大陸満州へサクラの調査へ行かれています。すごい。常人にはできません。
 
 医師が「ご臨終です(ごりんじゅうです。お亡くなりになりました)」と告げたあとに、牧野富太郎さんは息を吹き返しています。なんだかすごい87歳です。スーパーマンです。
 生命の限界がわからないと言われていましたが、94歳のときにお亡くなりになりました。昭和32年(1957年)でした。
 
 高知県出身の方ですが、たまたまテレビ番組の「出川哲朗の充電バイクの旅」を見ていたら坂本龍馬の話とバイク旅のようすが放映されました。
 牧野富太郎さんも高知県出身の方なので興味をもって番組を観ることができました。本には、大河ドラマの主人公渋沢栄一さんとは考え方が合わなかったという岩崎弥太郎さんのご親族のことも出ています。岩崎弥太郎さんの弟さん弥之助さんが牧野富太郎さんを金銭面で援助されています。岩崎弥太郎さんは、三菱財閥の創始者ですが、この時代の若い人たちというのは新しい日本のために生き生きとしながら輝いていたことが伝わってきます。
 
 18ページの花の部分名称を記した絵を見て、自分が小学生のときに理科で習ったことを思い出しました。23ページにある「界-門-網-目-科-属-種」もたぶん高校生のときの学科「生物」で習ったような気がします。

 バイカオウレン:春を知らせる白い花  

Posted by 熊太郎 at 07:20Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年06月09日

アーニャは、きっと来る マイケル・モーパーゴ

アーニャは、きっと来る マイケル・モーパーゴ作 佐藤見果夢(さとう・みかむ)訳 評論社

 全体で9章あるうちの1章を読み終えたところで、本の表紙の絵を見ました。
 ベレー帽をかぶって、つえをもって、肩から鞄を斜めに下げているのが、ジョー・ラランデという羊飼いの少年であることがわかります。
 彼の左隣にいる犬が、牧羊犬のロウフで、話の内容から察すると歳をとっている犬です。
 ふたりの背景にある場所は、フランス国の山間部レスキュンというところです。スペイン国との国境に近いというような情報があります。グーグルマップで調べたらやはりそうでした。かなり山深い。南側がスペイン国です。地図を見ていたら、コロナウィルスが終息したらいつかフランスに行ってみたいと思いました。
 それから、本のタイトルを見て、「アーニャ」って、だれだろうと思いました。
 第2章を読み終えて、「アーニャ」がだれなのかがわかりました。
 それとは、別の情報で(本のカバーの裏に書いてありました)「ユダヤ人の子ども12人の亡命に手を貸した村人たち」のようなことが書いてあります。
 第二次世界大戦:1939年-1945年。連合国対日本・ドイツ・イタリア。連合国軍の勝利。この本では、戦争が始まってから2年ぐらいが経過したところと説明がありました。現地のフランス人村人たちは、まだ、ドイツ兵を見たことはないそうです。
 亡命:他国に逃げる。
 ユダヤ人差別:ドイツ軍による大量虐殺(たいりょうぎゃくさつ。ホロコースト)ユダヤ人は、ユダヤ教を信仰する人々で、ユダヤ教は一神教(いっしんきょう)といって、ユダヤ教以外を宗教として認めません。この世に登場した最初の宗教がユダヤ教で、ユダヤ教からキリスト教が生まれて、ユダヤ教とキリスト教からイスラム教が生まれています。イエス・キリストが十字架にかけられたことで、キリスト教徒がユダヤ教徒を許せない心情があります。シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)

 読みながら感想メモをつくっていきます。

 ジョー・ラランデ:12歳。母親リズと祖父アンリ・ラランデとヒツジの群れを飼育する農業を営んでいる。父は戦争に行ってドイツ軍に捕まって捕虜になっているそうです。
 クリスチナ・ラランデ:ジョー・ラランデの妹。
 ムッシュ・サートル:レスキュン村の村長
 ユベール・サートル:村長の息子。村一番の大男。知的障害がある。この物語において、この息子さんの存在が大きい。この息子さんがこの物語を太く強く支えていきます。
 牧羊犬ロウフ:白いグレートピレニーズ(大型犬。原産地フランス)年寄り。ブタが大嫌いだそうです。
 ジャン・マーティ:ジョー・ラランデの従兄(いとこ)
 ラサール神父
 アルマン・ジョレ:食料品店の店主(野生のクマを仕留めた(しとめた。鉄砲で撃って倒した))
 オルカーダばあさん(アリス):農場経営。村人からは好かれていない。あだなが「クロゴケグモ(メスはたてよこ4cm×6cmぐらい、おなかの大きな黒いクモ。オスのほうが小さい。」ただし、ジョー・ラランデのおじいさんはオルカーダ―ばあさんをかばう。おじいさんとおばあさんは昔、恋人同士だったそうです。祖父アンリの娘(ジョー・ラランデの母親)は、オルカーダばあさんを嫌っている。まあいろいろあります。
 謎の男(第1章で)ベンジャミン:オルカーダばあさんの娘婿(むすめむこ。赤いひげの男)娘のフローレンスはお産がうまくいかなくて亡くなった。第2章で名前が判明する。彼は、ユダヤ人です。
 アーニャ:ベンジャミンとフローレンスのこども。オルカーダばあさんの孫娘。赤い髪の女の子。6歳ぐらいのイメージです。
 ローラン:ジョー・ラランデの親友
 リア:ポーランドから逃亡中の少女。兄弟姉妹が8人いた。ユダヤ人
 オーダ先生:学校の先生
 ローラン(男子):知的障害があるらしきユベールのものまねをするこども。
 アルマン・ジョレ:学校の児童
 ヴァイスマン中尉:ドイツ軍司令官。中尉(ちゅうい):将校。大尉の下、少尉に上。
 ドイツ陸軍の伍長(ごちょう):ドイツのバイエルンに妻と娘が三人いる。長女はベルリンの電話会社で働いている。伍長は、現地では、林業を営んでいる。
 マダム・スーレー:パン屋で働いている。
 マダム・ローベ
 ジョー・ラランデの父親。戦地で結核になって帰郷
 ミッシェル・モローワ:ジョー・ラランデの父親の同郷の戦友。こちらも結核で帰郷

 良かったセリフとして、オルカーダばあさんの
「ここの人たちは田舎者(いなかもの)だけど、愚か者(おろかもの)じゃないんだ」
 不思議だったセリフとして、ベンジャミンの
「どっちの神さまに?」(ユダヤ教の神さまかキリスト教の神さまかという選択だろうか)

 娘婿と義理の母親との関係の強さに違和感をもちましたが、娘であり、孫娘である「アーニャ」の存在がふたりをつないでいることがわかり納得できました。

 戦乱期の情報収集がラジオです。ラジオロンドンからの放送を頼りにしています。現代だとSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)の利用なのでしょう。

 ペタン:フランスの軍人、政治家
 ドゴール:イギリスロンドンのいる将軍。シャルルドゴール。フランス大統領

 35ページの「おれだよ」がおもしろかった。笑いました。

 ポワチエ:フランス西部にある都市。人口約26万人

 アーニャ―はいないのです。だから、アーニャがくるのを待っているのです。ゆえに本のタイトルが「アーニャは、きっと来る」であることがわかりました。

 レスキュン村にドイツ軍人たち22人がやってきました。
 フランスから国境を越えてスペインに逃げようとするユダヤ人を捕まえるための派遣です。
 逃亡に協力するフランス人もドイツ軍に捕まえられてしまいます。

 ノスリ:鳥。鷹(たか)

 「ジェンクゥーヤ」(ポーランド語で、ありがとう)
 
 夜間外出禁止令が出ました。午後9時30分以降の外出は禁止です。破ると逮捕されます。
 豊臣秀吉の刀狩り(1588年)のように、鉄砲狩りも始まりました。鉄砲はドイツ軍に差し出さなければなりません。
 
 今は5人。

 第一次世界大戦ベルダンの戦い:1914年(大正3年)-1918年(大正7年)ドイツ、オーストリア=ハンガリー、オスマン帝国、ブルガリア対連合国。連合国の勝利。ベルダンの戦いは、1916年にフランスの都市ベルダン(ベルギー、ルクセンブルク、ドイツの国境に近い)であった戦い。
 26万人ぐらいの死者、行方不明者が出た。

 将校 伍長:将校は少尉以上の軍人もしくは、部隊の指揮官。伍長は、最下級の指揮官。5人程度の集まりの長。

 よかった表現として「ユーベル(障害者)を幸せにする者は、村人たちに受け入れられる」

 子どもが8人。納屋に隠れている。

 バイエルン:ドイツの州。チェコ、オーストリア、リヒテンシュタインとの国境。州都がミュンヘン

 ドイツ軍の中尉も伍長も人間味があって優しい。だけど、軍の上層部からの命令もあって、ユダヤ人には厳しいのでしょう。

 納屋にいる子どもの数が10人になっています。
 12人までいくのでしょうが、ふと、戦争を扱った日本の児童文学作品である壷井榮さんの名作「二十四の瞳(にじゅうしのひとみ)」を思い出しました。12人のこどもたちの瞳の合計が二十四です。そのうちのひとり岡田磯吉くん(ソンキ、とうふやの息子)は戦争に行って戦闘で眼球を失って失明してしまいました。それでも彼は、自分たちが小学一年生のときの白黒集合写真を指さしながら自分にはみんなの顔が見えると同級生や担任だった大石先生に語るのです。

 ついに12人になりました。

 下ばえ:木の下に生えている草
 洞穴:ほらあな

 ユダヤ人のこどもたち12人のうち、少なくとも女の子が3人。女の子のうちのひとりは「リア」、チェスがうまい小さな男の子が「マイケル」6歳ぐらいに見えます。(あとでわかるのですが、本当は15歳です。飢餓状態で育ったので発育がうまくいっていないのです。彼がジョーに伏線になるチェスの「白の女王」のコマをもたせてくれます。彼は、ポーランド語、フランス語、ドイツ語、英語を話すことができます。賢い少年です)

 ユダヤ人は戦時中、いつでもどこでもドイツ軍に見つからないように隠れて暮らしています。小説でも映画でも暗くて狭い場所にたくさんで隠れています。気の毒です。

 生き延びるための国境越えです。フランスからピレネー山脈を越えてスペインに逃げます。スペインに手助けをしてくれる人たちがいます。
 ただ、病気やけがで動けない人もいます。それでもドイツ兵は迫ってきます。GO!(ゴー)かSTOP(ストップ)か。迷います。
 
 ドイツ軍の伍長(ごちょう。五人ぐらいのグループの班長ポスト)は金曜日のたびに休みをもらって双眼鏡でワシを見るために山に登ります。
 伍長は、戦争の加害者であるとともに、被害者でもあります。三人の娘さんのうちのひとりをドイツベルリンの空襲で亡くします。
 彼の言葉です。「戦争をするなら、兵隊同士で戦うべきだ。(自分の娘が空爆で死んでから悩んでいるという話が続きます)」
 後半は、ドイツ軍人である伍長とフランス人12歳のジョー・ラランデとの強い友情が表現されていきます。伍長はドイツ軍ヴァイスマン中尉から見ると反逆者です。昨年読んだ同作者であるマイケル・モーパーゴ作品「フラミンゴボーイ」でもドイツ軍伍長はいい人でした。庶民同士は仲良くなれるのに、国家同士は対立しようとする。いけないことです。
 こちらの物語の伍長もジョー・ラランデも秘密をかかえて生きていくことになります。人間はむずかしい生き物です。昔は「(秘密を)墓場までもっていく」と表現しました。最近はどういうわけかバレバレです。SNSの発達が明白をサポートしているかのようにみえます。

 マーモット:リス科の小動物。ねずみのようにも見える。ワシの獲物(えもの)

 だんだんピンチが迫ってきます。

 戦地で捕虜になっていたジョー・ラランデの父親が結核という肺の病気で帰還してきますが、戦争で精神状態がよくない方向へと変わっています。無事に帰って来てもアル中状態です。家族は嬉しくありません。
 ちょっと不思議なのは、結核は人に感染する肺の病気なので通常は専用の療養所に隔離されるような気がします。
 
 逃亡のアイデアは素敵です。昔から伝わるお話(物語とか民話)には、役立つヒントがあります。

 一蓮托生(いちれんたくしょう):複数のひとたちが最後まで運命をともにすること。

 ヨハン・セバスティアン・バッハ:1685年-1750年。65歳没。ドイツ人作曲家

 ベンジャミンの良かったセリフとして「……希望が見えなくなっていたとき…… ただ、待って、祈ろう……」

 ホエー:チーズをつくるときに出る透明な液体。糖分とタンパク質
 ハフリンガー:馬の種類。ドイツ、イタリア、オーストリアが原産地。体高130cmぐらい。ポニー
 
 最後を迎えて、物語は最初に戻ります。
 大きな伏線(後半で大きな感動を呼ぶために前半に置くネタ、情報)が仕掛けてありました。
 
 良かったセリフとして、「(ドイツ軍の)伍長は善良で親切な人だ……それでもやはり敵側の人間だ……」
 たしか、洋画「戦場のピアニスト」でユダヤ人ピアニストを救ったドイツ人兵士は戦後収容所で早くに亡くなりました。
 死ななくてもいい人たちがたくさん死んでいったのが「戦争」です。

 村人たちがフランス国家「ラ・マルセイエーズ」を合唱するシーンが本に出てきますが、たしか洋画「カサブランカ」にもそういうシーンがありました。歌は国を象徴します。洋画「サウンドオブミュージック」では、エーデルワイスがオーストリア国家を意味していました。

 良かったセリフとして、おじいちゃんの「また、やりなおすために」

 最後の一行を読んで、胸にずんとくるものがありました。

(訳者あとがきから)
 原語の作品は、1990年に出版されているそうですから、かれこれ31年前の作品です。  

Posted by 熊太郎 at 11:46Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年06月07日

ウィズ・ユー with you 濱野京子

ウィズ・ユー with you 濱野京子 くもん出版

 「with you」は、「あなたとともに」と理解して読み始めます。

 本の帯に今年耳にした新しい言葉が書いてありました。「ヤングケアラー」たしか、介護が必要な祖父母のめんどうをみる孫のことでした。

 これを書き始めた朝、たまたま新聞に特集記事がありました。お年寄りのめんどうをみるだけだと思っていたらさらに範囲が広がりました。弟や妹、障害者の家族、アル中の親のめんどうや精神病の親のめんどうまでみるそうです。
 最初は、たいへんだなあという気分で読んでいましたが、むかしをふりかえってみると、どこの家でもこういうことってあったなあと思い出したのです。メンバー全員が心身ともに健康で仲良し家族というのは珍しいのです。たいていはなんやかんやいろいろあるのです。昔はプライバシーがない生活でしたからあからさまに見えていましたが、現代は、壁の中に隠されている生活です。どちらがいいのかはわかりません。ただ、むかしはいやなこともありましたが、ご近所同士の助け合いもありました。

 さて、37ページまで読んだところで、要点をまとめておきます。
 柏木悠人(かしわぎ・ゆうと):緑中学校三年生 志望校は東高校 緑町(みどりちょう)にある5階建てエレベーターなし、間取り3DKの団地で暮らしている。 陸上部 制服はブレザー 坂和公園(さかわこうえん)あたりをジョギングするのが日課 週二回塾通い 
 柏木直人(かしわぎ・なおと):柏木悠人の兄 高校二年生 第一高校 成績優秀 中学時代は卓球部でベスト8
 柏木陽子:柏木兄弟の母親。元公務員。現在は、市役所の非常勤公務員(アルバイト? 嘱託?)夫の要請で正規公務員を退職したことを悔いている。両親は秋田県で兄夫婦と同居している。
 柏木健一:柏木兄弟の父親だが母子とは別居している。家を出てから半年以上が経つ。母子の生活費だけ入れてくれる。夫婦仲は良くない。柏木悠人は父親には半年以上会っていない。父は、元映像プロダクション勤務。父方祖母は岡山県でひとり暮らしをしている。祖父は亡くなっているようす。
 富沢朱音(とみざわ・あかね):坂和中学(さかわちゅうがく)二年生 いまのところ謎の女子生徒。  ショートヘア 細い体格 友だちは、小柄でボブカット(ふわっと丸めな短い髪型)をしていて、メガネをかけている「横山ひより」と、背が高くて、少しくせのあるショートカットをしている「久松桃子」。富沢朱音(とみざわ・あかね)の母親は、橘花学院大学(きっかがくいんだいがく)という優秀で有名な大学を卒業している。分譲マンション「坂和ヒルズ」に住んでいる。(その後の情報:一年の途中までテニス部。小学二年生の妹「富沢和花(とみざわ・のどか)」がいる。中学二年生の春に、坂和中学校へ転校してきた。父親は名古屋に単身赴任中
 大久保博貴(おおくぼ・ひろき):坂和中学校三年生。柏木悠人の塾友。妹が中学二年生で、大久保美里(おおくぼ・みさと)成績優秀。塾に来ている。第一高校を目指している。
 新川渉(にいかわ・しょう):緑中学校で、柏木悠人と同じクラス。ひとりっこ。脳梗塞発症後の祖母と亡くなるまで同居していた体験あり。祖母は認知症だった。
 中井哲也:中学校で、柏木悠人の前の席に座っている。テニス部だった。テニス部の後輩の女子と付き合っている。両親は共働き。父親は有名企業。母親は教師。四歳年下の小学四年生の弟がいる。
 入船:柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)の担任教師

 いい出だしです。『ただ、家にいたくない、と思ってしまう』柏木悠人の声です。優秀な兄と比較されての居心地の悪さが家庭内にあります。(気にすることないのに。兄弟姉妹というものは、それぞれがそれぞれの世界をもって生活していきます)

 酔狂な輩(すいきょうなやから):もの好きな人間
 えんじ色:濃い紅色。あずき色
 カシオペア座:北天にある星座。五個の星がWの形に並ぶ。

 28ページにある柏木悠人のセリフ『夜、出歩くなって、いったろ!』は不自然に感じました。違和感があります。(違和感:いごこちが悪い)

 「あのころは、まだ親は不仲ではなかった……」というセリフからは、離婚率が高い今の世の中を感じます。夫婦はお互いにがんこになりました。譲るということをしない男女カップルが多くなりました。子どもも被害者ですが、親が離婚すると子どもも将来離婚しやすくなります。離婚にストップをかける立場の者がいません。

 オーラ:独特な雰囲気。エネルギーが満ちているとか、輝いているとか、存在がきわだつ感覚

 富沢朱音(とみざわ・あかね)の妹が障害者なのかと思いましたが違いました。どうも母親が病気らしい。母親はいつも寝ている様子なので、メンタルの病気の気配があります。とすれば、富沢朱音(とみざわ・あかね)は、幼い妹と病気の母親のめんどうをみていることになります。中学二年生で親代わりと主婦をしていることになります。

 かっこいい兄のことで、女子たちに兄の情報を聞かれる弟の立場は苦しく悲しい。

 児童文学のなかにある世界では、こどもたちは星や月が好きです。この本の中では、星は好きだけど輝く月は星の存在を消すから好きでないというようなことが書いてあります。

 柏木悠人の誕生日は6月10日だそうです。偶然ですが、うちのおやじの命日です。自分がこどものときに病死しました。6月10日は「時の記念日」と書いてあります。そうか、たしかに時の記念日でした。もう忘れていました。
 富沢朱音(とみざわ・あかね)の誕生日は、3月3日だそうです。ひな祭りです。

 恋バナ:恋に関するお話。今の相手、過去の相手。いろいろ。

 経済的に苦しいから私立高校よりも公立高校を選択するというのは、現在では過去の話になっているような気がします。私学助成が進んで、私立高校でも学費は実質無償化されていると思います。

 富沢朱音(とみざわ・あかね)の身上調査のようになってきました。
 彼女のセリフとして「……わたしは、いなくなんて、なれないんだ。わたしがいなかったら、うちが、こわれちゃうから」まじめです。(だけど、彼女は疲れています。このさきが心配です)

 「単身赴任」という文字を見て、昔は聞かない言葉だったけれど、昔は「出稼ぎ(でかせぎ)」という言葉はあったなあと思い出しました。農閑期(のうかんき。農業をやらない冬場)に地方の農家の従事者が都会の建築番場で肉体労働をすることです。
 また、テレビを見ることができないのを嘆いていますが、昔は、テレビを買えない家もありました。テレビがある友だちの家で見せてもらっていたことがあります。家にテレビがないから学校の図書室で借りてきた本を読んでいたということはあります。
 最近の若い人たちはテレビをあまり観なくなったようです。ソーシャルネットワークの世界をみているようです。

 塾弁(じゅくべん):塾の施設内で食べるために家庭から持ち込む弁当

 内申点(ないしんてん):九教科の評価を五段階で評価したもの。45点満点。英語、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭。ほかに、生徒会、部活動、各種検定取得、学校行事への参加など。

 別居している父親からの送金額を心配しているシーンがあります。うーむ。お金がなければ稼げばいいのに。(かせげばいいのに。もらうお金をあてにしていてもしょうがありません)わたしは、中学生でも高校生でもお金が必要であればアルバイトをすればいいと思う人間です。自分もそうでしたから。もし、学校に文句を言われたら、だったらお金をくれと学校に言います。

 ひとりっこは比べられないからいい(他の兄弟姉妹との比較)これに対して、ひとりっこは、ひとりで全部背負わなければならない苦労がある(親の世話)
 同級生の新川渉(にいかわ・しょう)が、 柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)に、認知症の母方祖母を預かった時の大変だった話をします。
 「なんで、おれがばあちゃんの面倒みなきゃいけないんだよ……」というセリフが出てきます。
 祖父母との交流をもたずに社会に出てくる若者が増えました。
 ところが、日本の社会は高齢化社会です。仕事をしていくうえで、お客さんが高齢者ということが多い昨今です。
 高齢者ですがお金はもっています。長時間労働と節約で貯めてきた大切なお金です。
 お金を貯めるのに「学歴」は必要ありません。無職の期間をできるだけ短くして長期間働き続けることがお金を貯めるコツです。
 お年寄りがこれまで生きてきたそういうことを知らない若者は、お年寄り相手の接客がにがてです。ゆきづまってしまうこともあります。
 お年寄りの発想は自由自在です。法令だけにはしばられません。また、マニュアル(手引き)にもしばられません。だからお年寄りからは、マニュアルどおりの答は、たいてい返ってきません。
 そして組織の上層部は高齢者である顧客とのトラブルは望んでいません。矛盾が発生します。(理屈とつじつまが合わない状況)そんなこんなで仕事が続かないといういまの若い世代があります。
 いっぽう、高齢者の相手が上手にできる人はいろいろな面で有利です。そんなちょっとしたアドバイスをここに落としておきます。

 体が元気でなんでも自分でできる人は、だれかが自分に負担をかぶせてくることをきらいます。自分のことは自分でやってくれという気持ちが湧きます。ところが、体が元気な人は永遠に体が元気なわけではありません。やがて元気でなくなるときが必ずきます。負担をかけるほうの立場に変化します。明日は我が身なのです。
 
 よこしまな感情:人の道にはずれたよくない感情
 老老介護:年寄りが年寄りの介護をする。夫婦であったり、親子であったり。未婚母子家庭、離婚したこどもとその親の組み合わせなどで世帯が高齢化している家庭
 ヤングケアラー:学校に通学したり、仕事をしながら同居の家族の介護や家事をしたりしている十八歳未満のこども。
 
 『ものみないこえるしじまの中に』『もの皆憩える』この文節が伏線になるのだろうか。(伏線:感動を生むための後半への仕掛け)(読み終えてみて伏線ではなかったようです)

 反実仮想(はんじつかそう):事実と反対のことを想定する。

 富沢朱音(とみざわ・あかね)の母親は、去年の夏から仕事を再開して、くも膜下出血で倒れたそうです。(メンタルの病気ではなくて、脳内出血による後遺症でした。富沢朱音(とみざわ・あかね)の母親の症状がわからないのですがうつ的になっているようです)

 家族のめんどうをみていることをクラスメートに話しても、同様の体験がないクラスメートには、めんどうをみている者の気持ちが伝わりません。

 男子中学生と女子中学生の会話、男子中学生とその父親の会話のシーンを読んでいて、現実にはこういう会話のやりとりはないと思いますが、小説ですからありです。ただ、ぎこちない。(自然ではない)

 子どもの権利条約:1989年に国連総会で採択。日本は、1994に批准(拘束(こうそく)されることに同意)①生きる権利②育つ権利③守られる権利④参加する権利
 歴史をふりかえってみれば、子どもと女子は人間扱いされていなかった過去があります。子どもは労働力として家畜同然に扱われていたと学んだことがあります。

 リア充(りあじゅう):現実の生活が充実している。

 富沢朱音(とみざわ・あかね)は学校での人間関係では演技をしている。本当は暗いのに、明るい人間のふりをしている。苦しいだろうなあ。(最近のニュースだと有名な女子テニスプレーヤーの方の事情のようです)

 男女の軽い恋愛感情が表現されます。
 「ヤングケアラー」の話はあまり出ません。踏み込めていないのではないか。
 
 富沢朱音(とみざわ・あかね)に言わせると、柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)が富沢朱音(とみざわ・あかね)に優しくするのは、柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)の都合だそうです。
 富沢朱音(とみざわ・あかね)が、柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)に会うことを拒否しました。

 兄弟間比較をいやがる弟の柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)ですが、兄から言わせると「……次男坊は気楽でいいなあ」
 兄の言うとおり、知らないから、あっちのほうがいいなと思うだけです。
 弟の柏木悠人(かしわぎ・ゆうと)は、兄に対して優秀な兄貴のことで自分は迷惑していると主張します。

 父親が妻の母親に、孫へのスマホプレゼントの依頼をしているのですが、違和感がありました。父親にとって自分の親ではないからです。ましてや父親は、別居している自分の娘のだんなさんという立場です。

 中学生向きというよりもおとな向きの小説のような雰囲気がすると感じながら読み続けましたが、最後まで読んで、やはり中学生向きだと判断しました。
 ヤングケアラーについては、つっこんだところまで書けないという事情があるのでしょう。

 公民(こうみん):社会科の内容。政治、経済、現代社会
 招じる(しょうじる):招き入れる(まねきいれる)
 反芻する(はんすうする):くりかえして、よく考えたり、味わったりすること。
 
 良かったセリフとして、
「直人(兄)は、悠人(弟)が好きなもの、わかってんだな。昔から」(兄は弟に気を配って譲っていた。弟は兄のことを誤解している)
 
 なんというか、受験というものは、試験日ぎりぎりになってがんばっても手遅れであり、そのずっと前に結果が見えているものなのです。

 スクール・ソーシャル・ワーカー:こどもの問題を解決する役割を果たす職。生活支援、教育や福祉制度の活用を担当する。(環境面からのサポート)
 スクール・カウンセラー(心理面のサポート)とは異なる。

 NPO(エヌ・ピー・オー):NPO法人。ノンプロフィット・オーガニゼーション。非営利団体。市民団体。社会貢献活動や慈善活動(弱者援助)を行う。(付け加えると、自分は、NPOだからNPOは必ず正義の味方だとは思っていません)  

Posted by 熊太郎 at 06:30Comments(0)TrackBack(0)読書感想文